第5章 ヒカリの中へ
そう言って八乙女社長は私の後ろに1度視線を送ってから、私を見た。
『ありがとうございます』
さり気なく差し出される手に自分の手を添え、小さくお礼を言いながら段を降りていく。
フラッシュの瞬きはいつまでも続いていて、一体どれだけカメラに収めれば気が済むのだろうと心の中で苦笑した。
ようやく広間の扉を抜ける時、立ち止まり、振り返って、もう一度お辞儀をしてから廊下へと出ると、そこには姉鷺さんが微笑んで立っていた。
その微笑みを見た瞬間に、やっと窮屈な時間が終わったんだ···と安堵の息が漏れた。
姉「お疲れ様。久々の眩しさはどうだった?」
微笑みを崩さずに姉鷺さんが歩み寄り、私の肩に手を乗せた。
高いヒールのせいで、姉鷺さんの顔がいつもより近くに感じる事に何となく照れながら私も笑い返した。
『なんだかちょっと疲れた···かも』
姉「でしょうね。あんだけアホくさい質問攻めに合えば疲れるわよ」
『個人的な会見って、しんどいんだね···ホント、疲れた···』
そう言って息を吐いて寄りかかれば、ふわりと姉鷺さんの香りがして···そのオトナっぽいスパイシーな香りにクラリと目眩を覚えて···全身から力が抜けたまま姉鷺さんにもたれ掛かる。
姉「愛聖?」
『あ···ごめん、なさい···ちょっとだけ、捕ま···』
姉「え、ちょっと愛聖?···愛聖?!」
慌てる姉鷺さんの声が、少しづつ遠くなる。
視界がうっすらと青暗くなって、眩しさを遮るようにゆっくりと目を閉じる。
小「···愛聖さん?!」
社長の声がくぐもって聞こえて。
八「愛聖!!」
八乙女社長の声も微かにしか聞こえなくなって。
直後···記憶が途絶えた。