第5章 ヒカリの中へ
『あの、姉鷺さん?···少しばかり、ヒール···高過ぎではないでしょうか』
姉「そうかしら?」
そうかしら?って···そうですよ!
最近ずっとスニーカーやサンダルで楽に過ごして来た私には、こんな···こんな10センチ近くもあるヒールが不安定以外の何物でもないバランスで足元を飾っている。
姉「そもそもアンタ小柄なんだからさ、それくらいあってやっと普通サイズってトコじゃない?」
小柄って言っても周りが高層ビルサイズなだけなんですけどね···
一般的···より少し低いかも知れない身長の私の周りは、揃いも揃って175センチだの、180センチだの···
そんな中にいれば私が小さく見えても当然と言えば当然です。
姉「そんなふくれっ面を晒さないの!こんな時なんだからさ、ちょっとくらい背伸びしたオシャレした方がいいの。それに、私がお世話してあげられるのはここまでなんだから。ほら、サッサと歩いてロマンスグレーなおじ様たちにエスコートして貰いなさい?」
『ロマンスグレーって···』
まだまだ社長達はそこまでの年齢じゃないよ?と眉を寄せれば、姉鷺さんは私を見て笑いながら、似たようなモンよ?と言って、締め切っていたカーテンを静かに開ける。
その向こう側で、八乙女社長と小鳥遊社長が振り返った。
姉「お待たせ致しました。素敵なレディーに仕上がりましてよ?」
ハードルを上げるような切り口上を言いながら、姉鷺さんが私の背中に手を当て押し出した。
小「カジュアルな格好も似合ってるけど、こうドレスアップした姿ってのは女性らしさが引き立つね」
『そう言って頂けると嬉しいです』
どうしたって寮にいる時はスカートなんてほぼ履かないし、家事しやすいような服装ばかりだから。
『八乙女社長』
八「なんだ」
『こんなに素敵な衣装を用意して下さってありがとうございます。このドレスに恥じないように···胸張って頑張ります』
その言葉に対して何も返事はなかったけど。
だけど、私には少しだけわかる。
一瞬、八乙女社長の口元が緩んだって事が···
姉「そろそろ時間ね···愛聖?いちばん大事な所ですっ転んだりしないように···しっかりね」
『はい!行ってきます』
···とは言ったものの。
大丈夫だろうか···このヒール。