第5章 ヒカリの中へ
『あの、社長?』
八「なんだ」
小「なに?」
···ややこしい。
『小鳥遊社長、これはどういう事でしょうか?』
八乙女や姉鷺さんの顔を交互に見ながら聞けば、小鳥遊社長はクスクスと笑い出した。
小「八乙女がね。移籍会見を開くなら送り出す側の人間も同席した方が面倒が1度で済むからって。それで、元々自分の所にいた愛聖さんに見窄らしい格好はさせられない、自分に手配させろって自ら手を上げてくれたんだよ」
姉「そうなのよ~!アタシもビックリしちゃったわ···でもね、ほら見て?今日の衣装はとっても素敵なのよ~!」
八「姉鷺!」
姉「あら、いいじゃないですか。どうせもう着るんだし?って事で ···ジャーン!」
姉鷺さんが思い切り開けたカーテンの向こう側で、それはまるで···女の子だったら誰もが憧れるような、艷めく純白な生地を素材としたカクテルドレスが掛けてあった。
胸元にはパステルカラーのシフォンレースで作られた花飾りがひとつ存在を示していて。
『素敵···』
姉「おバカ!惚けてる場合じゃないでしょ!はい、愛聖はコッチに来て頂戴。それじゃ、素敵なレディーに変身するまで暫くお待ち下さいね?」
うふっ···と楽しそうに笑いながら、姉鷺さんがカーテンを閉める。
案内された場所には、私達以外には誰もいなくて。
姉「今はアタシが、愛聖のメイク担当だからよろしく~。あのドレスには···うん、そうね···」
いつになく真剣な顔をする姉鷺さんにかけられる言葉なんて見つからず、私はおとなしく鏡の前に座った。
少しずつ変わっていく自分を見つめながら、今日を境に···また環境がガラリと変わるかも知れないんだと、そんな事が頭に浮かぶ。
不安が全くない訳じゃない。
むしろ、不安しかない···気がする。
姉「何をそんな湿気た顔してんの、せっかくのメイクを台無しにするつもり?」
『そうじゃなくて···』
姉「だいたい考えてる事なんてお見通し。いい?前にも言ったけど、アタシが大丈夫って言ったんだからアンタはそれを真に受けときゃいいの!分かった?」
鏡越しに私を見て姉鷺さんがわざとらしく笑う。
『じゃあ、そうする事にします』
そう笑いながら返して、私も変にいろいろ考えることをやめた。