第1章 輝きの外側へ
シャワーから出た万理が髪を乾かすのを眺めながら、私が最後に見た万理の姿と重ね合わせる。
随分と長く伸ばしたんだなぁ。
···それは、私も···千もだけど。
自分の髪を指で掬い、この先きっとヘアスタイルに拘らなくていいんだよねと、いっそバッサリ切り落としてしまおうかと考える。
どんな配役が来ても、雑誌撮影が来ても、臨機応変に出来るように髪は切るな。
八乙女社長から言われて伸ばし続けた、この髪。
もう、そんな心配は必要ないんだから。
『万理、私ってショートにしたら似合うかな?』
ドライヤーを片付ける万理に、後ろから声をかける。
万「そこまで伸ばしたのに切るのはもったいない気もするなぁ···せっかくキレイな髪なのに。もしかして、失恋でもした?」
『し、してないよ!』
変な方向に話題を向けられ、慌ててそれを訂正する。
そもそも恋愛御法度の世界にいたんだから、そんなのする訳ないし。
万「ま、愛聖ならロングでもショートでも似合うと思うよ。俺はどっちの愛聖も知ってるしね」
···いつから万理は人たらしになったんだろう。
疑惑の目でジッと見ると、万理はただ···笑っていた。
万「さて、と。明日も仕事だし、そろそろ寝ようか?って言っても、ベッドはひとつしかないから愛聖が使って?」
『万理は?』
万「俺?俺は平気。ここで寝るから」
ここで、って。
『ソファー?』
万「そう、このふかふかソファー君」
オレの相棒をよろしく~!とにこやかに言ってるけど、それはダメでしょ!!
『私がそっちで寝るから、万理が自分のベッドに寝て?万理はちゃんと働いてるんだし、私はほら···無職···だし?』
万「ダーメ。ちゃんといい睡眠しないと肌荒れしたり髪が痛むでしょ。それに、俺は慣れてるから平気」
『慣れててもダメ。疲れが取れなきゃ仕事でミスるよ?』
万「大丈夫!俺は有能事務員だから」
自分で有能とか···普通言わないでしょうよ。
『とにかく、私が居候なんだからソファーに寝る』
万「だからそれは···」
これじゃ場所取り合いのイタチごっこだよ···
じゃあ···最後の手段と行きますか···
『万理。お互い譲れないならさ、あいだを取って一緒にベッドで···ってのは、どう?』
万「な、何言ってんだよ」