第1章 輝きの外側へ
その帰り道、だったんだよね。
私が八乙女社長に声をかけられたのは。
千と百ちゃんから打ち上げに誘われたけど、さすがに未成年が遅くまでは出歩けないからって言って、送るって言うのも断って一人で最寄り駅まで歩いてて。
ライヴを思い出しながらボンヤリ歩いてたら、目の前に通せんぼするように立ち塞がったのが八乙女社長で。
八「お前、こういう仕事に興味はないか?···興味があるなら明日ここに来い」
たったそれだけ言って名刺を渡され、八乙女社長は近くに停めてあった車で走り去った。
···ハッキリ言って、変な人に声掛けられたのかと思ったよ、あの時は。
怪しい勧誘で、如何わしいビデオとかに出されるのかと思って名刺を捨てようかと思ったけど。
何気なく帰りの電車の中で検索してみたら、同じ顔をした人が代表を務める会社が出て来てビックリした。
最初はホントに興味本位でどんな事務所なのか見に行ってみよう···位の軽い気持ちで行ってみたら、大きなビルの中にある事務所で。
こんなに凄い会社なら、きっと私なんてムリだろうって、気まぐれにからかい半分で声を掛けられたんだろうって、入口の前に立ち止まったまま動けずにいた。
帰ろうかな。
そう思って来た道を振り返ると、そこには八乙女社長が立っていて。
八「···来たか。ならば着いて来い」
前日と同じ様にひと言だけ告げて、私を中へと促した。
それからは社長が直々に母さんを説得して契約まで進めて、あっという間に私はこの世界へと足を踏み入れていた。
小さい時に父さんが病気で他界して、女手一つで私を育ててくれた母さんを少しでも早く楽にしてあげようと必死でやって来た。
けど、一生懸命に自分を叩き上げてる間に···母さんまで病気で他界してしまって。
私は天涯孤独の身になって。
母さんの病気に気づかなかった自分を責めた。
その辺から仕事が何となく上手く行かなくなって、遂には今に至るんだけど。
これから先、どんな仕事を探せばいいんだろう。
アルバイトの経験もない私が、一般的な仕事をすぐに見つける事が出来るかも分からない。
···なんだか一人で生きて行くのって、案外難しいんだなぁ。
『はぁ···』
明日からの事を考えながら、ひとつ···息を吐いた。