第5章 ヒカリの中へ
モモが楽屋から出てすぐ、スマホが鳴り出した。
僕の、じゃないな。
同じようにテーブルに置きっ放しになったスマホを見れば、明らかに着信があるのはモモの方で···
うそだ···なんでモモに?
画面を上にしたままのモモのスマホには、着信相手の名前が表示されていて、そこには···
マリー
···と。
ただの人違いかも知れない。
モモの事だから、同じようにニックネームで登録してる人間がいるのかも知れない。
だけど、どうしてこんなにも僕の心がザワつくんだ。
モモの電話に出てはいけない。
絶対ダメだ!
そう思っても、つい···僕の手は、モモのスマホへと伸びてしまった。
もし違う人だったら、掛け直させるから、と言えばいい。
もし違うひとだったら、僕が自分のと間違えたと言えばいい。
いろんな言い訳が次から次へと浮かんでは消えて行く。
出てはいけないと思いながらも、その反面。
もし本当に愛聖だったとしたら。
そう思ったら、指先が勝手に···着信を受けていた。
「も、もしもし」
緊張や、いろんな思いが入り交じって···声が上擦ってしまう。
『···もしもし、百ちゃん?』
···愛聖?!
しばらく振りに聞いた声に、思わず黙り込む。
聞きたい事はたくさんある。
いま、どこにいる?
いま、何をしてる?
ちゃんと食べてる?
どこに住んでる?
何から話せばいいのかさえ、分からない。
『あれ···百ちゃん、もしかして今、忙しい?だったらまた掛け直すね?』
また掛け直す?
モモは···僕に黙って、愛聖と連絡を取り合っていたのか?!
『百ちゃん···?』
「愛聖···」
一声だけ愛聖の名前を呼べば···電話の向こうでスッと息を潜める気配がした。
『······千?』
「愛聖···なのか?」
『千···ごめんなさい、私···ちゃんと連絡、するから。だから、ごめんなさい···』
「愛聖!待って!切るな!!」
咄嗟に叫んでも···繋がっていた通話は、既にそれを終えた事を表示していた。
百「たっだいまダーリン!」
絶妙なタイミングで戻るモモを思い切り振り返る。
「モモ···ちょっと大事な話があるんだけど、いい?」