第1章 輝きの外側へ
万「コーヒー、飲めるようになった?」
キッチンでお湯を沸かしながら、万理がイタズラっ子のように微笑んでいる。
『···お砂糖とミルク、たくさん入れたヤツなら』
万「それはもう、コーヒーとは言えない物体だな。その辺も、変わってないな···愛聖は、あの頃のままだ」
『変わって···なくは、ないよ』
言いながら、自分の体で仕事を取ろうと思っていた事を思い出し、膝を抱えて小さくなる。
万「何があったのか話す前に、ほら···まずはお腹いっぱいになろう。とは言っても、たいした物はないんだけどね。それにご飯はレンジでチンしたやつだし、味噌汁はインスタントだし」
そう言ってテーブルにいくつかのお皿が並び、割り箸を手に握らされる。
『ご飯と、コーヒーのコラボレーション···』
万「いいからいいから。あ、ちょっと先に食べてて?」
『いた···だきます』
事務所をクビになってから、湯気が立つような食事は食べてなかったから、温かい物に口を付けるとじわりと視界が滲んだ。
万「そんなに感激されると、心が痛いんだけど?それとも、涙が出ちゃうほど口に合わない?」
なんて返したらいいのか分からなくて、ただただ首を振った。
万「でも、これは特別だからね?はい、甘~い卵焼き。愛聖、好きだっただろ?」
目の前にコトンと置かれたお皿には、焼きたての卵焼きがキレイに並べられていて、また涙が零れた。
万「感激するのは食べてからでも遅くないよ?ほら、食べないなら俺が全部食べちゃうぞ?」
『···それはヤダ』
鼻を啜りながら言うと、ポンッと頭に手を乗せてから万理も箸を持った。
静かな空間に、温かい食事。
誰かの気配。
たったそれだけの組み合わせが、幸せだと感じてしまう自分に少しだけ悲しくなりながらも、少しずつ満たされていくお腹に···一人で食べる食事とは違う気持ちの味付けを感じていた。
食事を終えると、せめてものお礼にと食器洗いをして、また、テーブルに向かい合って座った。
何から話せばいいのか、どう話せばいいのか何度も躊躇いながら口を開こうとして、閉じた。
万「話したくなければ、俺も無理には聞かない。ただ、ひとつだけ教えて?···どうして、あんな所を一人でフラフラと歩いていた?」
『それは···』
万「あ、待って」