第4章 カケラの眩しさ
『すみません急いでますから、私はこれで失礼します···さ、撮影、頑張って下さい』
早口に言って、まるでその場から早く逃げたいかのように立ち去ろうとする彼女を、風が煽った。
『あっ···』
深々と被るキャップが風に踊り、それと同時に彼女の髪がふわりと揺れる。
飛ばされたキャップを拾ってあげようと手を伸ばせば、慌ててる彼女の手と触れ合ってしまって。
お互いにビックリしながら、そこで初めて顔を向けあった。
「大丈夫だった?今日は何気に風があるから、しっかり被っとかないと、飛ばされちゃうよね···って···えっ···ウソ···」
何も気にする事なくキャップを先に拾い、手渡すつもりだった。
けど···けどさ?
今もまだ風に揺れる髪に隠された顔には、見覚えがあって。
「マリー···?」
その顔と比例する名前が···零れた。
ホントに、マリーなのか?
他人の空似とかじゃなくて、マリーなの?!
風にたなびいて顔に掛かる髪に手を伸ばし、そっと耳にかけて見ればハッキリと視線がぶつかってしまう。
やっぱり···やっぱり正真正銘、本物のマリーじゃん!
『···ごめんなさいっ!』
驚き過ぎて硬直した瞬間に、マリーが駆け出して行く。
追···いかけるべき?
···!!
追いかけなきゃダメなヤツじゃん!!
「すみません、オレちょっと休憩長めにして下さいっ!」
「え?!あ、百さんどこへ?!」
「とにかくすぐ戻るから!お願いします!」
駆け出しながら言って、最後まで伝え切れたか分かんないけど、でも今あのまま別れたら絶対に後で後悔する!
スタッフさん達には戻ってから···あぁもう!マリーの事は説明出来ないからなんか理由考えとこ!
何より今は、マリーに···マリーに追いつかなきゃ!!
人の流れに逆らいながら、突っ走るマリーの後ろ姿を追いかける。
すれ違う人達が時々オレに気付いてハッとするけど、オレの必死さにカメラが回ってると思ってか誰も声を掛けてこない。
···にしても!!
マリー、あんなに走るの早かったか?!
なかなか縮まらない距離に焦り始めた時、マリーの行く先の信号が点滅する。
それならあそこで捕まえる!そう思ったのに···