第4章 カケラの眩しさ
見劣りって、何気にこの人···失礼ね···
だけどスッピンだし、百ちゃんにバレない為にも黙っておくのがいいかも。
百「確かに代わりは必要だけどさ、一般人を無理やりってのはダメなんじゃないの?ほら、局的にもさ、あんま強引なのとかマズイんじゃない?」
「あぁ···まぁ、それもそうですね···しかし、どうしましょうか。代わりがいなければ先の撮影に進めないし」
この人、別撮りとかいう考えは浮かばないんだろうか。
犬を散歩してる通行人なら、他の演者に直接関わってなければ別撮りだって出来るだろうに。
それとも、その通行人が何か大事なカット割りになっているとか···
いずれにしても、今の私には出来ることは何もない。
百「とりあえずさ、この手は離してあげてよ?」
百ちゃんがそう言うと、しっかりと掴まれていた私の腕が軽くなる。
百「ゴメンな?こっちのスタッフさん達も急な事で焦っててさ、オレからも謝るよ。ホントにゴメン!」
『いえ···私は別に···』
顔をのぞき込まれそうになって、思わずパッと反対側に顔を向けながら返事をする。
いくらノーメイクだとしても、百ちゃんには絶対バレる。
千の家に泊まってた時は、何度も素顔の私を見てる訳だし。
···絶対バレる。
百「そんなに顔背けるほど怒っちゃってる?じゃあ、ちゃんと謝るから、せめて顔くらい···見せてよ?」
『だ、大丈夫ですから。怒ってないし、ホントに大丈夫です』
自分の方へ向けようと私の顔に伸びる手を軽く払い、背中を向けるようにして買い物した荷物を持ち直した。
『すみません急いでますから、私はこれで失礼します···さ、撮影、頑張って下さい』
そう言って慌ただしく一歩を踏み出そうとした時、風に煽られて三月さんのキャップが飛んだ。
『あっ···』
咄嗟にキャップを拾おうとして、お互いにそれに伸びた手が触れてしまい、反射的に顔を上げてしまった。
百「大丈夫だった?今日は何気に風があるから、しっかり被っとかないと、飛ばされちゃうよね···って···えっ···ウソ···」
見ら···れた···
百「マリー···?」
風にたなびいて顔に掛かる髪をかきあげられ、ハッキリと視線が交差する。
『···ごめんなさいっ!』
そう小さく叫んで、私は荷物を握って走り出した。