第4章 カケラの眩しさ
「あの、すみません。ちょっと···お話、いいですか?」
目の前に現れた人影に、足を止められる。
『私、ですか?』
顔を見ないで返事をすると、私が警戒している···と思った相手はポケットから小さな四角い紙を差し出して来た。
···名刺?
無理やり手渡された物に目を通せば、そこにはテレビ局での肩書きや名前が書かれている。
チラッと見れば、派手なスタッフジャンパーを羽織った、いかにも番組スタッフという出で立ちの男性が立っている。
「怪しい者じゃないです。いまこの先でドラマ撮影をしているんですけど、確保していたタレントが急に来なくなってしまって···それで、ほんのちょっと映るだけなんですけど、出てみませんか?」
まさかの···スカウト?
「大型犬を散歩している通行人なんですど、どうですか?ドラマ出演に興味ありませんか?」
いや、興味というか···ねぇ。
まだ世間一般には公表してないだけで、私は小鳥遊事務所に所属してるし···けど、そんな事を話したら名前はなんだとか事務所に承諾貰うとか言い出しそうだなぁ。
う~ん···なんて断ろうか。
「もしかして緊張とかしてますか?」
『いえ、そういう訳ではないんですけど···ちょっと、そういうのは困る···かな、と』
「大丈夫ですよ!そんなにキビキビした撮影ではないし、他のスタッフも出演者もアットホームな雰囲気というか。そうだ!きっとあなたも知ってると思いますよ?今をときめくRe:valeの百!どうです?」
も···百ちゃん?!
いやいやいやいや···それは絶対ダメだから!!
と、とにかく何がなんでも断ろう!
『すみません、私!用があるので困ります!』
「そこを何とかお願いします!さっきあなたがここを通った時、ビビっと来る物があったんですよ!ね、だからお願いします!」
そう言いながら、ついには私の腕を掴んで離さない。
『離して下さい!そう言われても私だって困ります!』
特に百ちゃんのあたりが!!
何度断っても引き下がらない相手に戸惑っていると、背後に誰かが立つ気配がした。
「ちょっとちょっと?撮影の合間にナンパ~?離してあげなって、彼女嫌がってんじゃん?」
あっ···この、声···
「すみません、百さん···例のタレントの代わりを探してて。この女性なら見劣りしないかと」