第21章 ココロ、重ねて
❁❁❁ 千 side ❁❁❁
「お疲れ様、今日はこれで撮影は終わりだ。この後、演者のみんなは今後のことについて話があるのと、本日御足労頂いている原作者さんとの談笑があるからよろしく」
監督の声にスタッフは片付けを初め、演者もそれぞれ着替えをするために控え室へと歩き出す。
─ どんな小さな事でも、何かあったら僕に必ず教える事。それが約束だ ─
と、愛聖に言い聞かせたのはいいが・・・あの後の撮影も特に問題は起きず、今日撮影出来全てのカットが終わってしまった。
いや、何も起こらなかったのならいいんだ。
だがしかし、そうなるとあの女が無理にでも自分を売り込んで来た理由が分からない。
「・・・まだまだ気苦労は絶えないな」
百「気苦労って?」
大きく息を吐きながら呟けば、いつの間にかそばに来ていたモモが僕の顔を覗き込んだ。
「あぁ、気苦労は気苦労だよモモ。愛聖の近くでウロウロされると気が気じゃないからね」
言いながら視線だけであの女を示せば、モモもその視線を辿って、あぁなるほど、と口を閉ざした。
百「オレはもちろんだけど龍だって色んな事情は知ってるし、オレや龍が絡んでる撮影がほとんどだからさ、その辺は何とかなりそうじゃない?だからユキがそこまで心配する事もないと思うけど」
「まぁ、そうね」
そう言ったものの、撮影以外で何かあったらと思うと気は休まることはない。
「とりあえず、まだあそこで龍之介くんと笑っておしゃべりしてるうちの娘を回収に行こうか。監督の話だと撮影は終わったけどまだ予定があるみたいだしね」
使っていたパイプ椅子を折りたたんで近くにいたスタッフへと手渡し、曲作りの為に書き込んだ台本やノートをまとめると僕たちは愛聖の元へと足を向けた。
龍「お疲れ様です、千さん」
僕の姿を見つけると、龍之介くんは愛聖との会話を途切らせ姿勢を正す。
彼はいつも礼儀正しく、そして事務所の売り出しイメージとは違って爽やかで優しく、そう、言うなればお兄ちゃんキャラだ。
だからこそ、甘えん坊将軍な愛聖が心を許しているのよく分かる。
・・・あんまり分かりたくないのもそうだけど。
「まだこの後があるだろ?二人とも早く身支度しないとね?」