第21章 ココロ、重ねて
龍とのシーンが漸く撮り終わり、ベッドに座りっぱなしだった私はう~ん!と伸びをする。
『監督からOKが出てホッとしたね』
私のシリアスなシーンというより、ここは龍の大事なシーンだったからと言えば、龍は隠すこともなく安堵の顔を見せた。
龍「何度かリテイク出しちゃってゴメン」
『全然?何度かって言っても3回だし、それくらいなら何ともないよ。私なんて時代物の時なんてセリフ回しが難しくて噛んじゃったりしたし。あまりに噛むからセリフ変えて貰った方がいいんじゃないか?って楽にも笑われたんだもん』
あの時はホント、2種類の言い回しがあったりして大変だったから。
遊女としての言葉と、遊女としてではない彼女の心の言葉とか。
時代物は大変だって聞いてたけど、ホント大変だった。
とは言っても、現代物が楽だという訳ではないけど。
龍「この後は百さんとのシーンを撮って撮影は終わりって聞いてるけど、まだまだ緊張は解けないよな」
『そうだねぇ、百ちゃんはアドリブ入れてくるから私も緊張するよ』
台本にないセリフや動きを構わず入れてくる百ちゃんとのシーンは、これまで一緒に仕事した中で経験済みだけれど油断は出来ない。
笑っちゃダメなシーンでも、リテイク覚悟で百ちゃんはアドリブを挟んで来るから。
でもこの後のシーンは私が病室を抜け出し、廊下をつたい歩いている時にリハビリ室へ向かう百ちゃんとすれ違うだけのシーンだけど・・・侮れないよね。
だって、百ちゃんだもん。
何を仕掛けてくるのか、それとも何も仕掛けて来ないのか、いずれにしてもちょっと気持ちを引き締めておこうかな。
だって、百ちゃんだし。
その百ちゃんがいる方を見れば、百ちゃんはニコニコしながらスタッフの人たちと談話していた。
龍「百さんってすごいよな?誰とでもすぐ打ち解けて、現場スタッフにも顔が広いし」
『まぁ、そうだよね。私も百ちゃんの懐っこさは尊敬する』
人見知り激しくて、初対面の私にお前誰だ?なんて言った誰かさんとは大違いだなと過去を思い出しながら肩を竦めてみる。
『千もあんな風だったら、もっと早く打ち解けてたかもなぁ』
「今は打ち解ける以上に愛してるんだけど?」
不意に掛けられる声に驚けば、いつの間に来ていたのか千が立っていて。
『千との初対面は最悪案件でしたって話。っていうか、愛してるってなに』