第21章 ココロ、重ねて
誰にも何も言わず忽然と姿を消すだとか、ミステリーじゃないってのに。
どこで、何をしているんだろうか。
音楽は辞めてしまったんだろうか。
いつまでも答えが出ない無限ループを、僕は今でもずっと歩き続けている。
五線譜に目を落とし、万ならどんな曲をつけるんだろうか?
もし万だったら、と考えが巡る。
いやいや、ダメだ。
万のことを考えるのは今はやめよう。
この制作を任されたのは僕だ。
そして・・・今のRe:valeだ。
あの過去があるから今があるとはちゃんと分かってはいる。
けど、どうしても、ふとした瞬間にアイツの事を考えてしまうのは僕の悪いクセになっている。
「・・・キ?ねぇユキってば!」
ちょこんと僕の顔を覗くモモに気が付いて、思わず目を見開いてしまう。
「モモ、そんな急に顔を近付けたらびっくりするだろ」
百「だってユキってばオレ何回も呼んだのに考え事してて気付いてくれないんだもん。オレ拗ねちゃうぞ?」
ムゥっと頬を膨らませるモモに吹き出しながら、そんな可愛い顔して拗ねられたら僕はドキドキしちゃうけど?と笑い返す。
百「ってかさ、見てよコレ!オレ、車椅子なんて超久し振り!」
「あぁ、そうか。モモは事故で足をって役だったね」
百「そうそう!既に片足チョン切られた後のシーンなんだ。この後に撮るシーンはオレとマリーが初めて出会う大事なシーンだから、なんかワクワクするよね」
ワクワクって、モモはホントに今回の撮影が楽しくて仕方ないんだな。
「初めて出会うって言っても、愛聖は目が見えてないんだから、出会うってより院内ですれ違ってモモが気になるって感じじゃなかったっけ?」
百「そうだけどさ、でも、そこから始まるラブストーリーってイイと思わない?いろんな葛藤があって、増してやオレのライバルって龍じゃん?萌える・・・」
「萌える?燃えるじゃなくて?」
萌えるって言ったら愛聖なのか龍之介くんなのか分からなくなるじゃないかと言えば、モモは自分の好きな演者と撮影が楽しいんだと朗らかに笑う。
そんな無邪気に笑うモモを見て、やっぱり僕はモモとこの業界で仕事をしている事を大切に思えて。
「応援してるから、頑張っておいで?もちろん、僕も頑張るけどね?」
そう言って笑って、モモの頭をポンポンっと触れた。