第21章 ココロ、重ねて
「またまたぁ、そんなこと言ってあんまりリテイク出さないでしょ?」
私の言葉に監督が大きく笑いながら肩を叩く。
『ん~、でもちょっと難しい役どころだなって思ってて。台本読む度に、ここはこうなんじゃないか?やっぱりこうなのかも?とかグルグルしちゃって』
龍「愛聖がそんなに悩むなんて珍しくないか?いつもならこう、カチンコ鳴った瞬間に憑依するって感じじゃない?」
『憑依って、龍は私をお化けか何かだと思ってるの?』
むぅ、とむくれて見せると、そのやり取りを見ていた監督が更に笑い出す。
「やっぱり、元同じ事務所ってだけあって仲がいいね君たちは。ま、とにかく宜しく頼むよ」
じゃ後でと手を振る監督に私も龍も会釈をする。
龍「元、か」
小さく呟く龍を見上げて、どうかした?と聞けば龍は少しの苦笑を見せた。
龍「いや、今さ?監督が言ってただろ?元同じ事務所だけあってなかがいいってさ」
『まぁ、別に本当の事だし』
龍「それはそうなんだけど・・・もし愛聖が今も同じ事務所だったら、言い方も違ったのかな?って」
『そう、かもね。でもさ?私がいまこうやってお仕事をまた出来るようになったのは小鳥遊社長のおかげでもあるし、あのままだとしたら今の私はここにいないかもだよ?』
もし、あの時のままだったら。
私はきっとここにはいない。
それどころか、この業界にさえいなかったかも知れない。
この世にさえ・・・いたかどうかなんて、分からない。
なんて、ね。
『ま、いいじゃない?今もこうやって龍や、楽、それから天たちと仕事してるんだし、どこに所属してるかよりも今を頑張れば』
「「 その通り! 」」
・・・この声たちは!!
聞き慣れた声の重なりに身の危険を感じ咄嗟に龍の後ろに周り込めば、予想通り百ちゃんと千からのブーイングに笑う。
百「ちょっとちょっと!なんで逃げるのマリー!」
千「それはいつもモモが愛聖に突進するからだろ?けど、僕からも逃げるだなんて・・・悪い子だな愛聖は」
いやいや、強いて言えばふたりが過剰に構うからでしょうが!という言葉を飲み込んで、龍を盾にしたままチョロっと顔を出して笑う。
『龍?いま私、つくづく龍と一緒にいて良かったって思ったよ』
龍「それは嬉しい、けど・・・なんで隠れるの?」