第21章 ココロ、重ねて
淡々と顔色ひとつ、眉ひとつ動かさずに話す私に逢坂さんまでもが驚きの表情を見せた。
「だってそうでしょう?私たちにはちゃんと仕事をしろと言うのに、佐伯さんは自分が引き受けた仕事を不安だとかそういう言葉で壁をつくり、身を隠しているじゃありませんか」
『私は・・・私は別に、不安が大きいと言っただけでやらないとは言ってません!ちゃんと納得して引き受けた役なんです・・・ただ少し、難しい役だなって思っただけで、なのにどうして一織さんがそこで怒るんですか?』
「そうだよ一織くん。愛聖さんだって頑張ろうとしてるから役作りに悩んでるんだよ?だから僕たちが出来るのは、きっ大丈夫って、」
「背中を、押すことです」
逢坂さんが話しているのを割り込み、思っていたことを言葉にする。
『え・・・?』
それでも佐伯さんは困惑した顔をしているけど、逢坂さんには意が伝わったようで。
「そうだね、一織くんの言う通りだよ。僕たちが困った時は、いつだって愛聖さんが手を差し伸べてくれたり、頑張れ!って背中を叩いてくれた。だから今度は、僕たちの番ってことだね?」
「そうですね。ただ・・・今少し本人は理解に苦しんでるようですが、それも仕方ありませんね。七瀬さんに負けず劣らずのボンヤリさんですから」
『どういう意味ですか?!』
「そのまんまの意味ですが、なにか?」
『だから、その・・・私ってそんなにボンヤリしてるのかな、と』
反論してくると思えば、急にたどたどしく言い出す佐伯さんに思わず吹き出してしまう。
「いいんじゃないですか、あなたはボンヤリしても。ずっと突っ走り続けているだなんて、らしくないですからね。時に誰よりもカッコよくて、誰よりも泣き虫で甘ったれで。それが私の知っている佐伯 愛聖という女優なんです。ボンヤリというのは表現が違うかも知れませんが、力んで足を止めているのはらしくない・・・そういう事です」
ご馳走様とカップを片付け、まだ何かを考え込んでいる彼女を視界の隅に入れたままリビングを後にする。
そのドアの向こうでは、きっと吹っ切れた顔をしてくれていると・・・願って。