第21章 ココロ、重ねて
❁❁❁ 一織 side ❁❁❁
「おはようございます、佐伯さん。今朝は・・・まぁ、普通のようですね」
数日前、大神さんに凭れるようにして帰って来た佐伯さんはとても機嫌がよく、でも時折ふとした瞬間に表情に翳りを見せながらも映画やドラマの仕事が決まったんだと饒舌に話してくれていた。
・・・深夜まで。
『一織さん、おはようございます。今日は学校がないのに早起きなんですね?』
「私は平日も休日も、滅多なことがない限りは起きる時間は同じですよ」
壮「環くんは学校がない日だと仕事がなければ起こしに行くまで寝てるのに。はい、一織くんコーヒー」
そう言って逢坂さんがカップを差し出してくれるのをありがとうございますと受け取りながら、テーブルに台本を広げてセリフを覚えて行く佐伯さんの向かい側へと座った。
「今日は映画の撮影ですか?」
見ればキャスト欄にRe:vale 百 と書いてあるのが見え、先日の話からして映画の方の台本だと分かり声を掛ける。
『撮影じゃなくて、今日は顔合わせがあるんです。だけどやっぱり、なかなかこの役が難しくて・・・私に演じ切れるかどうかまだ不安が大きくて。万理から教えて貰ったネット小説に掲載されている原作も読み込んでは見たけど、見えていた人が見えない世界に立たされた時の孤独と不安との格闘って、実際に見えてる私には難しくて』
あぁ、そう言えば見えない人の気持ちがどうのって言いながら目隠しをして寮内をフラフラ散策していた事もありましたねと眉を顰め、香り立つカップに口を寄せた。
その時点で役に入ろうとしていたという事は、不安は大きくともその役を受ける気持ちはあった訳ですから・・・ひょっとして佐伯さんは・・・
ひとつの案が浮かび、コトン、とカッブをテーブルに置いた。
「あなたにしては随分と弱腰なんじゃありませんか?」
『弱腰・・・?』
唐突なことを言い出した私を、佐伯さんはポカンとして見る。
「えぇ、そうです。普段の佐伯さんは私たちアイドリッシュセブンには、業界のいち先輩として、受けた仕事はきっちりやり遂げるように話していますよね?特に四葉さんに至っては今日まで色々と説教をしていたのでは?」
「い、一織くん?!急にどうしたの?」