第19章 魔法のコトバ
ドラマ撮影の掛け持ちはつい少し前まで経験しているけど、それぞれの撮影場所をハシゴ状態だったり、早朝から深夜までの撮影なんてザラでもあった。
それこそ、私も社長もなかなか家に帰れない事も何度かあったし。
それは今に始まった事でもなく、八乙女社長の所にいた時だって当時私についていてくれた姉鷺さんと一緒に近くのホテルに長期滞在した事もある。
それも、防犯状やむを得ないとはいえ姉鷺さんと同じ部屋にとか。
それ以外はRe:valeとのダブル主演のやつで、千の家に寝泊まりしてたけど・・・
通常の職務を抱えながら私と行動してくれている社長に、それをお願いするのは心苦しい部分もあって、すぐにやってみたいとは言えずにいた。
って、その前に大事な事を聞くの忘れてた!
『あの、社長?その映画化する作品って言うのはどんな内容なんでしょうか?まずはその内容を確認してから考えたいと思うんですけど』
受ける受けないの前に、内容を知らずに判断できませんからと言えば、社長はそう言うと思って準備したいたよとパソコンの画面を私たちに向けた。
小「僕もまだ詳しくは見てないんだ。何せ本当に今朝そういう連絡を貰ったから。ただ、検討するに至っての割愛した資料なら届いてるよ。君が演じる事になるかもしれないヒロインは、遺伝的な病気のせいで視力を失ってしまい、そしてその病気の治療の為に長いこと入院生活をしてる二十歳になったばかりの女性だ。視力を失った日々を悲観的にただ生きている。そんな時、事故で片足を失くしてしまいリハビリで入院していた同じ歳の青年と出会い、自分とは逆に現実を受け止め未来を見据える彼と過ごす内に、いつしか心惹かれていく。とまぁ、流れはこんな感じだね」
マウスを動かしながら私たちに画面を見せ、先に少し読んだと言う社長が分かりやすくストーリーの流れを説明してくれる。
遺伝的な病気で視力を・・・それを私に演じられるだろうか。
見えていた世界がある日、突然見えなくなってしまうだなんてどれほどショックだろう。
そんなヒロインを、私が出来るのだろうか。
自分の力量と、そのヒロインの生きてきた道筋を比較して曇る顔を社長はただ真っ直ぐに見つめている。
万「あの、ちょっといいですか?」
静まる空気を気にしながら、万理が社長に言う。