第18章 Return to Myself
私が初めてCDを出すことになって、それでボイストレーニングに通ってた時。
家に帰る前に姉鷺さんが、急ぎで八乙女社長に承諾書にサインをして貰わなきゃならない書類が出来たからって事務所に寄ったら、そこに母さんがいた事があった。
その時は、必要な書類に署名が必要だったから呼び寄せたって八乙女社長から聞かされたけど。
いま思い返せば、特別急ぎの書類じゃないなら私に預けてくれても大丈夫だったんじゃ?
それに、母さんたちは重要な書類に目を通したような難しい顔なんかじゃなく、まるで世間話でもしていたかのような顔をしてた。
もしかして、元々知り合いだったとか?
でも、母さんと八乙女社長は歳も近かったし、ちょっとした昔の話なら噛み合う部分もあったはず。
例えるなら、私と逢坂さんや三月さんが学生時代の事を話す時のような・・・
多分、そっち・・・かな?
昔からの知り合いだったとしたら、もっと砕けた話で盛り上がったりするだろうし。
それに母さんも早くに両親を亡くして、バイトを掛け持ちしながらギリギリ大学を出て、社会人になっても趣味だったピアノを弾くバイトをしたり、他にもたくさん働いて・・・その頃に父さんと知り合って私を授かったって言ってた。
恐らく当時から芸能関係の仕事をしていた八乙女社長と母さんの接点なんて考えつかない。
だからきっと、歳が近いってだけで昔はこうだったとか話してただけだろうし。
『はぁ・・・余計なこと考えてる場合じゃないよね。今はアイドリッシュセブンの事だけを考えなきゃ』
検索していたページに再び視線を移し、そろそろお風呂の準備でもしようかと電源に手を伸ばした、ら。
「私たちの事だけを考えてくれるとは、ありがたい事この上ないですね」
・・・えっ?!
予期せぬ声に顔を上げれば、目の前にはパジャマ姿で座り込み、私の顔を覗き込む一織さんがいて思わず体を思いっきり引いた。
『い、いいいいい一織さん?!いつの間に?!』
一「何度もドアをノックして声を掛けましたよ。とは言っても、ドア自体は開け晒されていましたが。それでも反応しなかったので、お腹が満たされて寝落ちしてるかと思えば、百面相を始めたので・・・とりあえず見てました」
『見てましたって・・・見ないで下さいよ!恥ずかしいじゃないですか!』
全く・・・と言いながらパソコンの電源を落とした。