第18章 Return to Myself
みんなでラーメン屋に寄った帰り道でナギさんから聞いた話は、ゼロの事を詳しくない私でさえも驚かされる内容だった。
『桜・・・春樹、と。あった・・・けど、主だった情報更新はない、か・・・』
部屋でお風呂の順番を待ちながらノートパソコンを開き、ナギさんから聞いた名前を検索してみるも、そこにはただ、日本の作曲家としか出ていない。
画面を見つめたまま、ナギさんの話をもう一度考えてみる。
アイドリッシュセブンの曲を書いた人が、桜春樹・・・つまり、ゼロに曲を書いていた人だと言うこと。
それから、その人とナギさんは顔見知りであると言うこと。
病気の体のまま、姿を消してしまったと言うこと・・・
それは誰かを探す為に旅立ってしまったのだろうか?
それとも、なにか他に理由が?
いずれにせよ、自分の体に病を抱えているのを知っていて、それでもその人を突き動かしていた目的があったのだと思うと、その人が今も健在でいる事を切に願ってしまう。
だって私は、同じように病を抱えたままでいて、それでも必死に働いて・・・遠くへ旅立ってしまった人を知っているから。
母娘ふたりで生きて行くには働き過ぎじゃないかと思うほど仕事ばかりしていて。
私がこの世界で活動して仕送りしても、手を付けずに貯金されていた。
貯金・・・そういえば、母さんが亡くなってから荷物の整理をしていた後で、八乙女社長から渡された預金通帳があった。
私がまだ赤ちゃんだった頃から母さんが亡くなった前月まで、毎月同じような日に大層な金額が預金された事が記録されていて。
今更だけど、あのお金はどういう理由で預けられていたんだろう。
金額だけ見ても、母さんが幾つか掛け持ちしていた仕事の給料を全部足しても足りない程の金額でもあった。
通帳名義は確かに私の名前ではあったけど、母さんからはそれについて何も聞かされてないし。
ただ、それを私に手渡した八乙女社長はどこか切なそうな目をして、お前が嫁に行く時にでも使ってやれ・・・と目を伏せた。
もしかして八乙女社長は、それがどういう意図で預けられていたのかを知っていた?
・・・ワケ、ないか。
そもそも母さんと八乙女社長は私が八乙女社長にスカウトされたからって時に初めて顔を合わせたんだし。
あれ・・・でも、待って。