第17章 見えない未来
『かつて優しくてカッコよかったお兄さんに数年後再会すると、ケチケチお兄さんへと変貌していた・・・Fin』
万「物語調にしてもダメなものはダメ。それからケチじゃないから。今日だってウサギさんリンゴ出してあげただろ?」
それとこれとは話が違う!と言いたいけれど、残りの半分は明日の朝ね?と言われていたから、機嫌を損ねたらデザートなしの朝ごはんっていう可能性も考えると、言えない。
『じゃあ歌は、また今度にして貰う』
万「あのねぇ。また今度って、愛聖は何回家出する予定?あんまり社長を困らせるなよ」
『それは分かってる。なるべく家出しない方向にするから。もしそうなったら今度は別の場所を考えるから。ネカフェとか、最悪は千の所・・・は百ちゃんもいるからダメか・・・』
万「そもそも家出するなっての!」
『痛っ・・・』
パチンとおでこを弾かれて、冗談だったのに・・・と拗ねる。
『女優のおでこにデコピンするとか、ありえないんだけど。明日凄い腫れてたらどうするのよ』
万「大丈夫。愛聖の明日のお仕事スケジュールは真っ白さんだから」
『もう!』
万「ナイスキャッチ、俺!それ!」
手元のクッションをぽふっと投げ合っては、時間も忘れてゲラゲラと笑い合う。
仕事のスケジュールは、これからまた埋めていけばいい。
余計な事を考えなくていいくらいスケジュールが真っ黒になるまで。
それから、社長は危ないからダメだって言ってたけど・・・彼女との接触も試みたい。
聞かされた話が本当なら、きっとまた私に何かを仕掛けてくるだろうから。
そしたら、ちゃんと話をして。
同業者として、対等に恨みっこなしの仕事がしたい。
あんなに綺麗なのに、もったいないよ。
恨みを晴らしたいだけで、この世界にいるのはもったいない。
実力だってあるのに、私を恨むだけでこの先もずっと生きていくのは間違ってると思うから。
本当は、仲良くなれたら・・・だとか思うけど。
それは多分、難しいかな・・・とも思うし。
万「隙あり!」
『ふにゃっ?!』
万「この勝負は俺の勝ち!って事でそろそろ寝ようか?」
『なんか腑に落ちないけど、まぁいっか?』
いつからそんな勝負に変わってたんだか・・・
ここでの2度目の最後の夜は、甘くも酸っぱくもなく、ごく普通に過ぎて行った。