第17章 見えない未来
普段のナギさんを思い浮かべて笑えば、三月さんが急に黙り込む。
『あ、あれ?三月さーん?おーい、もしもーし?』
三 ー ギューって・・・ギューっ、だよな・・・その、ハグ的な・・・ ー
電話の向こうでポソポソと呟く声が届いて、直後。
三 ー ど・・・ドーンと来い!なんでも受け止めて抱きしめてやる!よし!決まりな!じゃ、そういう事だから明日な!! ー
『あ、三月さん?!ちょっ・・・切れた?!』
もう!三月さんってば急に慌てだしてどうしたんだろう。
でも・・・
『お兄ちゃん・・・か』
万「ん?なんか言った?」
キッチンで作り置きのおかずを作っては冷蔵庫に入れていた万理がエプロンを外してソファーへ座る。
『まぁ、ちょっとね。独り言っていうか』
万「独り言?」
『まぁ、ね。あのさ万理?もし、私にお兄ちゃんって存在があったとしたら、どんなお兄ちゃんだと思う?』
万「どんなって?」
『だからさ?カッコイイとか、優しいとか・・・ほら、一織さんには三月さんっていうお兄ちゃんがいるでしょ?』
私がそう言うと、万理はちょっと笑って私の顔を覗く。
万「急になに?愛聖が子供の頃ならいたんじゃない?カッコよくて、優しいお兄ちゃんってのが」
『そんな人いたかなぁ?』
万「いたいた!あとほら、ツンデレ大王のお兄ちゃんもいたでしょ?」
『それって、万理と千じゃん・・・私が言ってるのは、万理や千じゃないって。しかも自分でカッコ良くて優しいとか普通言わなくない?』
もうこの話はおしまい!なんて言ってカップのココアを飲み干せば、万理が堪らず笑い出す。
万「そんなに拗ねない拗ねない。カッコよくて優しい方のお兄ちゃんが、今夜は甘やかしてあげるよ・・・ほら」
大げさな位に両腕を広げる万理を見て、なにそれ?と笑い返す。
万「今夜は2度目の、最後の夜だからね。特別大サービスだよ」
2度目の・・・そう言われると、そうか。
前の時は、ドア越しに背中合わせになって万理が歌ってくれたんだよね。
『じゃあさ、』
万「歌いません」
『まだなんにも言ってないのに!』
万「言わなくても分かるから先にお断りです」
万理・・・いつから私の心の中が読めるような特技を?!