第16章 動き出した真相
それは私には信じ難い内容ではあったけど、それでも社長は次が起きない為にも用心しようと提案してくれた事も、まだ寮へ戻るのを考えた方がいいという結論になったんだから。
環「施設で子供のころ・・・だけど」
『・・・はい』
誰とも目を合わせずに俯いていた四葉さんがぽつりぽつりと話し出す。
環「小さい子供が大人に連れて来られて、いつか迎えに来るからって、繋いだ手を離されて・・・結局その大人は俺が施設を出る時まで迎えに来なかったのを知ってる」
『そう、ですか』
環「ずっと大人が言う “ いつか ” って、いつなんだよって、思ってて。だからマリーも、いつかって言っても、帰って来ないんじゃないかって思って」
四葉さんがここへ来る前に施設にいたと言う話は、四葉さん本人からも聞いた事がある。
家庭の事情で兄妹で施設に入れられ、妹さんだけが先に里親に引き取られたという事も。
環「だからいつかって、いつなのかわかんねぇよ」
四葉さんがそう言うのも、分かる。
仕事先との会話でも “ また今度 ” とか “ またいつか ” だなんて言うのは、確約された日時がある訳じゃない。
実際にその時の “ 今度 ” や “ いつか ” を約束してくれる相手もいるけど、大半がまるで流れるように挨拶に組み込まれている言葉のひとつに過ぎない事の方が多い。
『四葉さん、ちゃんと約束します』
環「じゃあ、マリーが言ういつかって、いつ?」
『そうですね・・・あ、四葉さんの学校で試験っていつありますか?』
環「試験・・・?えっと・・・」
う~ん・・・と考え込み出す四葉さんからの言葉を待ちながら、同じ学校に通っている一織さんの顔を見る。
一「定期テストならまだ少し先ですね。具体的に言えばひと月ほど。科目的な範囲テストであれば、その授業の進み具合いに乗じてという感じでしょう」
ひと月先・・・それまでには、現状突破するくらいの時間はある。
『分かりました。一織さん、ありがとうございます。それから四葉さん、テスト勉強また一緒にやりましょう。私が教えてあげられる範囲はあまり広くはないから、優秀な一織さんと逢坂さんも一緒に』
環「それ、マジ?」
『大マジです。約束します』
四葉さんに向けて小指を差し出すと、一瞬大きく目を見開いて小指を絡ませてくる。