第15章 shine of the palm
曲が始まっても止むことのないTRIGGERコールの中で、みんなは歌い出す。
その光景が私にはとても切なくも見えた。
本来だったらこの曲は・・・アイドリッシュセブンの物だったから。
だけど、それを分かっていながらもTRIGGERの代理として、TRIGGERの曲だとして歌うみんなの姿を見守るしかなくて。
「すみません小鳥遊さん・・・こちらの事情があるとは言え、こんな役目をお願いしてしまって」
同じようにステージの袖から見ていたスタッフさんが、申し訳なさそうに紡さんの横に立った。
紡「大丈夫です。彼らは、ガラガラの会場でも、びしょ濡れになっていても全力で歌えるんです。だから、みんなの気持ちも歌声も・・・きっと届きます」
紡さん・・・
紡さんの言葉尻が僅かに震えるのを感じて、胸が痛くなる。
紡さんは、アイドリッシュセブンが正式に結成するところからずっと一緒に歩いて来た。
たった9人のお客さんのライヴも、雨に降られたライヴも。
ずっとずっと一緒に乗り越えて来たからこそ・・・大丈夫だって信じてる。
途中参加の私なんて足元にも及ばない強い絆で繋がってるのって、正直、羨ましいって思うけど・・・私もいつか、その中に入れたらいいのにとも思えて。
多分こんな事を言ったら、みんなは私に仲間なんだから!とか言ってくれるんだろうけど、私はみんなの事でまだまだ知らない部分もたくさんあるから。
って、ダメダメ!
こんな大事な時に考え事なんて!
心のスイッチを切り替えるように深く呼吸をして、ちょうどサビに差し掛かったステージへと視線を戻したところで背後の足音に気が付いた。
楽・・・というより、みんな?!
そっと振り返った先にはTRIGGERがいて、TRIGGERはドタキャンだと聞かされたから、とっくに帰ってしまったものだと思ってたから、現れた姿に驚くも、さすがの私でも分かるような、声を掛けられる雰囲気ではなかった。
楽「あいつら・・・こんな中でも歌ってるのかよ・・・」
収まってきたとは言え、ブーイングの中で歌うみんなを見た楽の呟きが届く。
紡「八乙女さん?!」
楽の声に振り返る紡さんの肩に手を置いて、静かに黙って首を振った。
今は、なにも声を掛けない方がいいと、そう思ったから。
それを紡さんも読んでくれたのか、戸惑いつつもステージへと顔を戻す。