第1章 先輩、じゃなくて名前で呼んでみろ
「先輩」
午後からの会議に向かう途中、ふいに後ろから声をかけられて俺は足を止めた。振り返らなくたって分かる。この、鈴の音のような可愛らしい声の主が誰なのか。
「どうした」
くるりと振り返れば、少し離れた場所から小走りでやってくるの姿が見えた。女性兵士の中でもひときわ小柄な体格に、いまだに十代を思わせるあどけない顔立ち。そんな彼女が、満面の笑みを浮かべながら走り寄ってくるのだ。
(クッソ可愛い・・・・)
俺は思わず心の中で悶えてしまう。
は訓練兵時代からの後輩で、俺の狭い交友関係の中でも数少ない付き合いの長い人間の一人だ。調査兵団に入団し、巨人達との戦いで多くの仲間達が死んでいく中、俺たちは生き残ってきた。今ではもう、俺のことを「先輩」と呼ぶ奴はこいつ一人だけになってしまった。
「エルヴィン団長から、この後の会議について―…」
は手に持っていた資料を俺に差し出し、エルヴィンからの伝言を報告し始めた。は仕事にムダが無い。
報告は分かりやすく簡潔に行うし、資料作成も要点を押さえて素早く作成する。だが一方で、話すときの口調はゆっくり丁寧であるため、仕事の処理速度が早いくせに、あくせくした印象を全く与えなかった。
「よ」
「はい?」
伏せられていた視線が上がり、コバルトブルーの瞳とバチリと視線が合う。あぁ、キレイだ。今にも吸い込まれてしまいそうな、深い青。
「先輩、じゃなくて名前で呼んでみろ」
「え・・・えっ??!」