第3章 先輩の意外な一面
「…突っ立ってないで座れば?」
「……失礼します」
野宮先輩の厚意(?)を無下にする訳にもいかず、私はひと言断ってから彼の隣に腰を下ろした。
そしてガサガサとコンビニ袋の中から買ってきた物を出す。
「お前……それだけ?」
「え…?」
「…昼飯」
訝しげな顔をしている彼。
その視線の先には、私が買ってきた調理パンが1つ。
「はい…そうですけど」
「………」
そう答えると、彼の眉間には更に深い皺が刻まれた。
「まさかダイエットとか言うんじゃねぇだろうな?」
「い、いえ…そういう訳じゃありませんけど……今日はあまり食欲が無いので…」
私の答えに彼は深く溜め息をつく。
そして…
「…仕事は体が資本だろ?そんなだから腕だってこんな細いんじゃねーの?」
「っ…」
不意に掴まれた手首。
驚いた私は、思わず持っていたパンを地面に落としてしまった。
「…ああ、悪い。そのパンは俺が食ってやるから、お前はこっち食え」
そう言う彼が差し出してきたのは、ボリューム満点の美味しそうなお弁当。
色も鮮やかで食欲をそそられる。
「そ、そんな悪いですよ!」
地面に落ちたといっても、パンはまだ包装された状態だ。
衛生的には何の問題も無い。
「いいから食えって」
「あっ…」
強引にお弁当を渡され、代わりにパンを奪われた。
「で、でも…いいんですか?これ、彼女さんが作ったお弁当じゃ…」
先輩に彼女がいるかどうかなんて知らなかったが…
こんなに見事なお弁当、きっと彼女か先輩に想いを寄せる女性の手作りだろう。
けれど予想外にも、先輩はパンを頬張りながら異議を唱えてきた。
「…彼女じゃねーよ」
「え…?」
「それ作ったの……俺だから」
「………」
少し照れ臭そうにそう言う彼…一瞬自分の耳を疑う。
「えー!」
「…うるせぇな」
「だ、だってこんなにすごいお弁当…!」
先輩の言う事が本当なら、断言出来る…
彼は確実に私より女子力が高いと…
「こういう職種だからな…料理ぐらい自分でする」
「……、」
「お前もこんなんばっか食ってないで、ちゃんと栄養あるもん食えよ?」
「…はい……すみません…」
私はそう答えざるを得なかった…
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