第3章 先輩の意外な一面
「ねえねえ、昨日の部長の話って何だったの?」
そう興味津々といった様子で話し掛けてきたのは、私より少し遅れて出社してきた同僚――草間梨乃だった。
彼女とは同期であり、気の合う仕事仲間兼友人でもある。
「実は新しい企画を任されちゃって…」
「えっ、すごいじゃん!良かったね」
「それが…」
今回の企画では野宮先輩と協力しなければならない…その事を正直に梨乃へ打ち明けた。
「えー!何それ、超羨ましい!」
「………」
(そう言えば、梨乃は先輩のファンだったっけ…)
彼女は入社当時から先輩の事を「カッコイイ!」と騒いでいた女子社員のうちの1人だ。
とは言え彼女自身にはちゃんと彼氏がいるので、恋愛感情というよりは"憧れ"といった気持ちが強いそうなのだが…
「いいなぁ…私だったら毎日ウキウキで出社するけどね」
「ははは…」
「それにしても、葵って相変わらず野宮先輩の事苦手だったんだ?」
「……だって恐いもん」
いつも無表情だし、彼が笑っているところなんて一度も見た事がない。
「まぁ口数は少ないし、1人でいる事も多いけど…そこがまたミステリアスなんだよねー」
「…へぇ」
「ちょっと…もう少し興味持ちなさいよ」
梨乃にはそう言われたが、全くもって興味が湧かない。
仕事に関しては素直に尊敬できるけど、それこそ彼のプライベートなんて知りたいとも思わないし…
そんな事を考えていると…
「…笹木」
背後から聞き覚えのある声に名前を呼ばれた。
「はい?」と返事をして振り返れば、そこには今まさに噂をしていた張本人が立っていて…
「の、野宮先輩…!」
「…後でミーティングルーム来て」
「……、」
私の返事を聞く前に、先輩はそれだけ言って去っていく。
隣にいた梨乃は案の定瞳を輝かせていた。
「やっぱり先輩カッコイイなぁ…私も名前呼ばれたーい」
「じゃあ…今回の企画、私と替わる?」
「なーに言ってんの!部長からせっかく大役を任されたんだからしっかりやりなさいよ!」
「いたっ…」
バンッと背中を叩かれ、思わず前につんのめる。
そんな私の耳元に顔を寄せてきた彼女は…
「先輩と何かあったら絶対教えてよね」
と小声で囁いてきた。
(…絶対ないから)
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