第5章 独白
初めて笹木の事を見たのは、アイツが入社して3ヶ月程経った頃だった。
仕事でヘマをやらかしたのか、屋上で独り泣いていたアイツ…
その姿を見た時、今までに感じた事のなかった想いが自分の中に芽生えた事を今でも覚えている。
その後すぐに笹木の事を知りたいと思ったが、当時互いに部署が違っていた俺たちの間には何の接点も無かった。
そんなある日、通勤電車の中で彼女を見掛けた。
毎朝同じ電車、同じ車両…
彼女の姿を見掛ける度、俺はまるで恋を覚えたてのガキみたいに胸を高鳴らせていた。
そして去年…運命の悪戯か、笹木が俺のいる企画部へ配属されたのだ。
これでやっと彼女に近付ける…そう思っていたが、その考えは甘くて。
笹木と話す機会は何度かあったが、彼女はいつも俺に怯えているようだった。
この顔と体の大きさのせいだろうか?
余談ではあるが…
俺はこの見た目のせいで、ガキの頃はよく他校の不良共に絡まれていたという過去がある。
態度がデカい、目付きが悪い、どれもくだらない理由で。
だからきっと笹木もそうなのだと思った。
その誤解を解きたかったが、俺は生憎器用な性格じゃない。
どうやって接すれば彼女を恐がらせなくて済むか毎日考えていたが、結局何も思い付かずもどかしい日々を送っていた。
それから1年…
またとないチャンスが巡ってきた。
俺と笹木で新しい商品を企画するという仕事に抜擢された事だ。
この時程部長に感謝した事はない。
これで笹木と話が出来る…
笹木の事をもっと知りたい…
――笹木が欲しい…
アイツの事を大して知りもしないのに、何故こんな感情が芽生えたのか正直自分でも驚いている。
過去には俺にだって恋人はいたし、それこそ一夜限りの相手だって何人かいた。
けれど思い返せば、俺はいつも受け身で。
自分から誰かを欲しいと思った事は今まで一度もなかった。
セックスも嫌いではなかったが、俺にとっては性欲を満たすだけの事務的な行為に過ぎなかったように思う。
そんな俺が。
今、笹木を欲している。
アイツをこの手で抱きたい…
アイツはどんな声で鳴くのか…
どんな表情で俺を煽るのか…
もう…笹木の事しか考えられない……
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