第3章 たとえば、君を知る倖せ【黒子のバスケ/黄瀬涼太】①
「詞織っち、ケータイ、教えてほしいっス」
「え?」
「もっと、詞織っちのこと知りたい。だから……」
頭一つ分以上低い位置にある彼女の深海を思わせる瞳を見つめ、黄瀬は軽く息を吸った。
「詞織っちがどう受け取ったのか知らないけど、好きだって言ったの、本気っスよ。オレ、詞織っちの彼氏になりたい」
視線が泳ぎ、彼女は顔を伏せた。
「あの、わたし……」
恥ずかしそうに顔を赤らめることなく、どこか困った表情。
告白に慣れている感じだ。
確かに、これだけ可愛ければ、男が放っておかないだろう。
それを考えると、少し気分が悪くなる。
だが、自分はその辺の男とは違う。
容姿や能力の話ではない。
自分以上に彼女を愛せる男はいない、という自信だ。
どう返そうかと考えているのだろうか。
彼女は目を合わせてくれない。
必死で言葉を探している詞織の頬に触れると、ビクッと身体が震えた。
一瞬目を合わせてくれた思ったが、すぐに逸らされてしまう。
「ケータイ、貸して?」
「け、携帯……」
少し迷う素振りを見せた詞織は、観念したのか、自分の携帯を差し出してくれた。
彼女の携帯に番号やアドレスを登録し、そのまま自分の携帯に通知を入れる。
「これでオッケーっス」
「わたし、あまりマメじゃないですよ?」
「いいっスよ。オレがその分マメにするっス」
「でも……」
そのとき、彼女の携帯が鳴った。
「あ……」
「どうしたんスか?」
「えっと、そろそろ帰ってくるようにって」
「昨日の兄貴?」
「いえ、姉です」
姉。そういや、いるって言ってたな。
昨日の双子の兄を思い出す。
やはり、姉も怖いのだろうか。
「それでは、黄瀬さん。わたしはこれで失礼します」
頭を下げて礼をする詞織。
悪戯心が湧き、頭を上げた瞬間を狙って、黄瀬は彼女の頬に口づけた。
軽いリップ音の後、詞織の顔が夜の中でも目に分かるくらい赤くなる。
「き、き……っ」
可愛すぎだ。
ようやく、意識してくれたのだろう。
「明日から本気でいくから、覚悟するっスよ」
頬を押さえる詞織の耳に囁き、彼は悪戯っぽく舌を出して見せた。
【たとえば、君を知る倖せ②へ続く】