第1章 春、好きだけど嫌い。
「はあっ⁈リエーフの第一志望音駒なの⁈私聞いてないっ‼︎」
高校2年の秋。
帰宅し、空のお弁当をキッチンに届けた時にふと目に入ったプリントの文字。
進路志望のプリントの1番上にはぐちゃっとした文字で、明らかに音駒高校と書かれている。
リビングのソファでくつろぐ両親のところへ走ると、お母さんは私を見てにこりと笑う。
「あら?レーヴォチカが言うっていってたのに…聞いてなかったの?」
「知ってたらこんなに驚いてないっ!なんで⁈」
そう問うていれば2階から当の本人が降りてきたらしく、リビングの扉を開きおかえりーと私に挨拶すると、お母さんの隣に座った。
「あーあ、ばれちゃったの?アンナには言わないようにしてたのに。」
にやり、いたずらっ子のように舌を出して笑うリエーフ。
知らなかったことが
知らされていなかったことが
悔しくて、悔しくて
私は悪態を吐く。
「へえー、レーヴォチカが音駒ね…偏差値大丈夫なの?」
そんな嫌味にリエーフはムッとした顔。
「ぎりぎりだから必死で勉強してるんだよ。絶対受かってやる。」
「じゃあなんで音駒にしたのよ。レーヴォチカなら他にも入れる学校あるじゃない。」
「音駒の制服、格好良いからだよ‼︎」
ムキになって言い返された言葉に唖然とすれば、くすりと両親の笑う声。
「アンナ?レーヴォチカね、あなたと同じ学校に行きたいんだって?」
お母さんの声。
その声に途端に慌て始めるリエーフ。
「ち!違うっ‼︎」
「違わないだろ?進路希望聞いた時に自分の口でそう言っただろう。」
お父さんの声に困ったような恥ずかしそうな顔。
そんな顔で伺うようにリエーフは私を見る。
そんな顔をするリエーフに、私は何も言えずに部屋へと向かった。
「おかえりアンナ。あら?アンナ、お顔真っ赤。」
同じ部屋のアリサにそう指摘されたけれど、何も言わないままベッドに向かう。
嬉しくて、気恥ずかしくて
そして、心臓が跳ねるのが苦しくて
ぎゅっと枕を抱きしめたんだ。