第1章 王馬くんがクッキーを作ってくれたそうです
「逢坂ちゃん、オレとこのクッキーでロシアンルーレットしようよ」
王馬くんに逃げられ続けてフラストレーションを溜めていた左右田先輩は、狛枝先輩に怒りの矛先を向けたらしい。
ちゃっかり逃げきった王馬くんが私の後ろから、遊びの提案をしてきた。
『えー、嫌だよ』
「もし逢坂ちゃんが勝ったらさ、オレはもう研究の妨害はしないって条件ならどう?」
『確率がわからなさすぎるし。王馬くんから聞いたとしても、その確率が正しいって判断できる情報もないし』
「オレはゲームに関しては真面目だから、嘘ついたりしないよ?残りの7枚のクッキーの内デスソース入りのクッキーはあと1枚だけだし、3枚ずつ交互に食べて、最後に残ったのがデスソース入りだったら、逢坂ちゃんの勝ちにしてあげるよ!」
『…………』
正直、デスソース入りのクッキーが食べてみたいという怖いもの見たさの部分がある。
けど、一心不乱に狛枝先輩をポコポコ叩き続ける左右田先輩を見て分かる通り、確実にデスソースを食べれば後悔必死だろう。
『……王馬くんが勝ったら?』
「オレにキスしてよ」
じゃれ合う(暴行事件と紙一重の)先輩たちから、視線を王馬くんに移す。
『……キス?』
「1枚目でアウトだったら口ね。2枚目でアウトなら頬。3枚目でアウトだったら手でいいや」
『失うものが多すぎないかなお互い』
「オレは得るものしかないよ?」
にこにことしたまま、王馬くんは私を見つめる。
ついこの前から、彼はやたらとそういった言葉をかけてくるようになった。
思い返してみれば、初めて彼と会話をした時から、それらしい言葉は聞いていたように思う。
『嘘だよね?』
「嘘だよ!じゃあね、オレが勝ったら1日1時間は、研究よりオレを優先してよ」
『…そのくらいなら』
嘘か本当か、彼の言葉はたまにわかりづらい。
最原からしてみれば、私は他の人と比べて格段に王馬くんの嘘を見抜くのが上手いらしいけど、自分が一度動揺するようなことを言われてしまうとわからなくなる。
『でも、デスソース入りクッキーの枚数の確率がわからないのは変わらないから、私にハンデが欲しいな』
「えー、嘘じゃないって!」
『狛枝先輩とチーム戦がいい』
「2対1ってこと?…クッキー食べるのは逢坂ちゃんってことならいいよ」
『よし』