第4章 ⇒OURNAME(前)【明智光秀】【R18】
『9:08分発 はやぶさ 新青森行き』
大学4年生の夏、幸いにも都内の大手貿易会社の一般職への就職が決まった私は、単位もすべて取り切っていたので就活の結果や今後の暮らしについて報告するために、実家のある盛岡に向かっていた。
かねてからの夢だった通訳や翻訳の夢を諦めたわけではない。
大学でやったレベルの語学では通訳や翻訳に携わるのは難しいから、この仕事に就く多くの人は、一回大学を出たら就職する。
そして働きながら通訳の専門学校や実践の場を使ってさらに語学力を向上させるのだ。
私も例に漏れずそのレールに乗ろうとしている。
一般職を選んだ理由は通訳の学校に行く時間を確保するため、そして……デンマーク語の通訳を欲している人がいたので、その方の元で通訳の卵としてデビューするためだ。
大学4年間、バイトと勉強ばかりであまり遊ぶことはできなかったけど、すごく充実していたな……そんなことを思いながら車窓から見える景色を眺めていた。
そんな「充実した大学生活」を送るうえで欠かせなかったのが光秀さん。
きっと光秀さんがいなかったら、今頃私はこんなに充実してなかったと思う。
学校に光秀さんがやって来た日、私が光秀さんの本名をカフェで教えてもらったあの日から2週間後の北欧展の帰り道で、光秀さんは私の“彼氏”になってくださった。
当時は2年生だったからあれから1年半くらい経つけど、私は光秀さんと付き合い始めたころより、もっと光秀さんが好きになっていて、もっと尊敬するようになっている。