第1章 母の自言辞を滅せよ
「どうりで上手くいかない訳さね」
「え?」
「アンタらの関係は『上司と部下』でも『姉と弟』でもない。ましてや『友』でも『恋人』でもない。ただの『親子』さ」
お登勢の意外な意見に、たまらず碧は顔を上げて聞き返す。
「親子? どういう事ですか?」
「聞いてる限りじゃあ、そうとしか思えないよ。アイツの身の回りの世話だけならともかく、アイツに何でもかんでも説教してんだろ?」
「それは銀時が何もしないからです!」
「男ってーのは、アンタが思ってるよりも単純で馬鹿な生き物だよ。褒められりゃあ調子に乗るし、甘えられりゃあ女を護りたくなるモンなのさ。けどね、一つ忘れちゃあならない事がある」
「忘れてはいけない事?」
困惑した碧の顔を見て一笑したお登勢は、もったいぶるようにタバコとライターを着物の袖から出した。タバコを咥えてカチッとそれに火をつければ、お登勢は一服して碧の目を見据えながら言う。
「男は『プライドの高い生き物』だって事を頭に叩き込みな」
「プライド……」
「実の母親からの説教ならまだしも、アンタに言われちゃあやる気も削がれるだろうさ。銀時はそんな役目、アンタに求めてないはずだよ」
「そんなつもりは、無いです」
「つもりは無くとも実際にそういう関係だろ、アンタらは」