第1章 母の自言辞を滅せよ
「でも、いつからか銀時は私をないがしろにし始めたんです。お礼も言わなくなって、私が家事をするのが当たり前みたいな態度をするんですよ? だから今は何をしてもダメなんです。アイツは、私がしてあげてる事に対して何の感情も無くて、どんなに一生懸命に働いても認めてくれないんです! 元からだらしない人だったけど、最近は本当に酷くて。だから私も私で『仕事に行け』だの『せめて体を動かす為に買い物に行け』とか言って説得しようとしてるんです。口煩いのは承知してますよ? でも言わずにはいられないじゃないですか。今日だってアイツ、医者に止められてるのにお菓子を食べようとしてたんです。せっかく健康に気をつけて料理してあげてるのに、自分からそれを台無しにしてるんですよ、あの毛玉。本当に土方さんを見習って欲しいわ」
勢いよく喋るたびに唾が飛び散るが、お登勢は慣れたように碧の話を聞く。今はもう怒りを全部ぶちまけたようで、お酒の所為で喜怒哀楽が激しくなった碧はカウンターにうつ伏せた。そしてくぐもった声で本音と言う不安を零す。
「……一昔前みたいに戦でならまだしも、予防できる病気で死んで欲しくないだけなのに。それなのに『どこの馬の骨とも知れねい私を住まわせてる恩を忘れやがって』だなんて、酷すぎる」
スナックにはしばらくの沈黙が降りた。顔をうつ伏せたまま、碧は何かに耐えるように空のコップを握りしめる。話題が話題なだけに、静寂は空気を悪くするだけだった。しかし、そんな重たい空気に反してお登勢はクスクスと笑いながら口を開いた。