第1章 母の自言辞を滅せよ
再び沈黙が訪れる。しかし今度は己の感情に飲み込まれる為の沈黙ではなく、己の行動を思慮する為の静けさだった。よくよく思い返せば、お登勢の言っている事は間違っていない。確かに、想像で碧を母親に置き換え、そして銀時を子供に置き換えても、二人の会話は親子の会話として成り立ってしまう。納得してしまえば、改めてお登勢に言われた言葉が痛いほど身に染みた。
「もう一回だけ言うよ。男は単純で馬鹿な生き物なのさ。アンタが自ら母親役を務めれば、アイツはそれに応じて子供役をするんだ」
「でも今更どうすれば」
「これもまた、単純な話さね。アンタが母親役を止めれば良いだけなんだよ」
気難しい顔で碧は押し黙る。それもそうだろう。一度ハマってしまった悪循環なサイクルからは、おいそれと抜け出せはしない。特に碧と銀時の場合、二人が二人して頑固者だ。それに具体的に何をすれば良いのかが、碧には分からなかった。そんな心情もお見通しとばかりに、お登勢は続けて言い聞かせる。
「難しいかい? なら、まずは説教を止める事だね。アイツの怠慢を指摘せず、アイツの愚行を他人と比較しない。どんなに金遣いが荒くとも口出しはしない。まあ、つまり黙ってみりゃあ良いのさ」
「そんな事したら本当に銀時は何もしなくなるし、家計が火の車になってしまいます!」
「アタシがさせないさ」
とんでもない提案に碧は猛烈に反発した。そんなの上手く行きはしない。そう断言するような音色で碧は強くお登勢に言った。しかしお登勢はそれを物ともせずに碧の意見を否定する。大きな器を持った者だからこそ、口に出来る言葉だった。
「良いかい? アタシァね、説教が誰よりも得意なんだよ。心配せずとも、この大江戸かぶき町のお母さんに全て任せな。あの馬鹿の根性はアタシが叩き直してやる。だからアンタはアンタで、ちったあ花嫁らしく振る舞いな」
最後の一言に、お酒で色づいていた碧の顔が一層赤くなる。