第1章 母の自言辞を滅せよ
「私は悪くないですよ。銀時の怠けた態度が原因なんですから」
「ダメだね、こりゃあ。お互いに頑固な性分じゃあ上手くいくモンも、上手くいきゃあしないよ」
「お登勢さんに何が分かるんですかっ!?」
カウンター裏から出てきたのは先ほど銀時が探していた碧だった。ムクれた表情で顔を表した彼女が不満を抱いているのが見て取れ、お登勢のコメントに大声で反論する。しかし、年上で自分を銀時から匿っていた彼女に怒鳴った事にはっとし、碧はすぐにしょんぼりとした態度になった。
「……すみません、取り乱しちゃって。お登勢さんにはもう十分迷惑かけてるのに」
「気にするんじゃないよ。あんな怠け者と屋根の下を一緒にすりゃあ、愚痴も底なしだろうさ。この際だ、残りも吐いちまいな」
拭き終えたばかりのコップに手際よくお酒を注ぎ、客が使うカウンター上にお登勢はそれを置いた。暗に「席に座れ」と合図しており、それに気づいた碧もお登勢の厚意に甘える。
「本当に底なしの愚痴になりますよ?」
「もう店仕舞いだから構いやしないよ。ほら、さっさとあの馬鹿が迎えに来る前に吐いちまいな。ここにいるってバレちまうのも時間の問題だろうからね」
観念したように、けれど求めていた救いが手に入ったかのように、碧は出された酒を手にした。最初の一口をゴクリと飲み込めば、重い溜め息がその後に零れる。
「……私、銀時の為に何でもやってるんです。掃除、洗濯、料理。家事全般なら居候しはじめてから新八君から引き受けました。行く場所のない私を拾って居場所を与えてくれたのは彼だし、何より事情も訊かずに招いてくれたのが嬉しかったんです。その恩返しと言うか、何と言うか……」