第1章 母の自言辞を滅せよ
碧のいない万事屋に帰ってきた二人と一匹は「また喧嘩か」の一言で、一人だけ足りない我が家で日常を過ごす。夕食も済ませ、新八は帰宅。神楽もテレビを見ながら寝る準備を終わらせれば、さっさと定春と共に寝床に付いた。銀時も本来なら寝る準備に入るのだが、その夜は寝る気分になれずにいた。否、理由なら分かりきっている。しかし捻くれた彼はすぐに認められずにいたのだ。
そのままダラダラと深夜番組を箱型テレビで見続ければ、いつの間にか時計の針は午前二時過ぎを指している。時計としては義務であり、同時に不可抗力なのだがカチッ、カチッと針が進む音が耳について、銀時をより苛立たせた。もう、うんざりだ、とばかりに銀時は着物の右袖に腕を通す。寝室から羽織と赤いマフラーを引っ掴んで着込めば、銀時は万事屋の戸を潜った。
冬に向かっている季節の所為か、外は想像以上に凍てついた空気をしている。早くも帰りたくなった己を制し、銀時はなんとか階段を下りきって「スナックお登勢」の戸を開けた。
「オイ、ババア」
「何だい、こんな時間に」
もう客も帰ってキャサリンやたまも自室へ戻ったのか、スナックの中にはオーナー兼ママであるお登勢の姿しかない。洗い終わったコップの水を拭き取っている彼女に、銀時は無遠慮に尋ねた。
「アイツ来てねーか?」
「アイツって誰さ?」
「アイツったらアイツだよ。碧だよ」
「知らないよ。居なくなったのかい?」
「あー、ちょっとな」
「あの娘もいい大人だから大丈夫だろうけど、早く探しに行きな 。どうせまたアンタがあの娘の嫌がる事でもしたんだろ」
「けっ、俺ァ悪くねーよ!」
そう吐き捨てた銀時は勢いよく戸をしめる。探していた人物がいないのを知り、別の場所へ向かったのだろう。店の戸を乱暴に扱われた事に怒りを覚えたお登勢だったが、すぐに呆れ返った溜め息をついてカウンター裏を覗く。そしてそこに隠れていた女性に話しかけた。
「ったく、アンタらは本当に傍迷惑な人種だね。こんなにも痴話喧嘩を続けて、ちったあ学習できないのかい?」