第1章 母の自言辞を滅せよ
「…………出てけ」
静まり返った部屋に嫌というほど響いたその一言は、新たな緊張感を生んだ。碧は耳を疑いながらも、目の前の男に聞き返す。
「何ですって?」
「『出てけ』っつたんだ。ンなに此処が嫌だったら、何処へでも行きやがれ!! どこの馬の骨とも知れねぇオメーを住まわせてる恩を忘れやがって」
視線を合わせる事なく、銀時はついに碧に万事屋を出てゆくように怒鳴った。聞き間違いでもなく、銀時に言われてしまった言葉に碧はショックを隠せず、心の奥から湧き出る激情で体を震わせた。手にしていたハタキは、今にも折れそうなほど強く握りしめられている。しばらくして目の奥からも溢れ出そうになる水分を感じ始めた碧は、その涙が零れ落ちる前にハタキを銀時に投げつけた。
「馬鹿ァアア!!」
大して痛くもないハタキが銀時の頭に直撃したのだが、それを見届ける事なく碧は万事屋から出て行ってしまう。戸を閉める大きな音と、早足に階段の駆け下りる足音が聞こえた。それすらも聞こえなくなれば、銀時は頭にぶつかった後に床へと落ちたハタキを見つめる。眉間に皺を寄せながら「クソッ」と口から零せば、重い腰をあげて床に放り投げたジャンプを再び手にした。言い争いを始める前と同じ体制、つまりソファーに寝転びながら漫画を読む体制に戻った銀時は、出かけていた新八、神楽、そして定春が帰ってくるまではそのままだった。