第1章 母の自言辞を滅せよ
「惚れてる女がテメーを立ててんだ。それでもケツに火が付かずグータラなままってんなら、その時はあのボンクラを捨てる事をお勧めするよ」
万事屋として共に暮らすうち、銀時と碧はいつしか互いを想い合う仲へと進展していたのだ。そして五ヶ月前の満月の夜、銀時はついに碧にプロポーズをした。籍を入れる目処はまだついていないが、二人の関係は甘さを増していたはずだ。しかし、ちょうどその頃から銀時と碧の「親子喧嘩」が始まり、今の醜態へと続いてしまった。
実の所、碧は藁にも縋る思いで全てをお登勢に話していた。せっかく婚約までいけた銀時との関係を、失いたくはなかったのが本音だ。ここまで来るのに何の障害もなかった訳でもない。お妙、あやめ、九兵衛、月詠。名を挙げ始めれば切りのないほど、銀時は色々な女性と親しい。当の本人は大して興味を持っていないようだが、中には銀時に心奪われている女性もいる。銀時と知り合って日の浅い、しかも共に騒動や試練を乗り越える力もない碧にとって、銀時を射止められた事実は奇跡に近い。だから余計に不安なのだ。最近は連続で続くこの喧嘩の所為で、銀時に捨てられてしまうのではないかと怯えている。今日だってそうだ。銀時の口から「出てけ」と言われ、帰るに帰れない状態になってしまった。
一度スナックに顔を出した銀時ではあるが、碧は素直に彼の好意を受け入れられず、カウンター裏に隠れてしまう。胸のつっかえが取れない以上、碧には万事屋に足を踏み入れる事が出来なかったのだ。それも見越したお登勢は銀時を追い出し、先に碧の不安を全て吐き出させたのだ。見事にそれらは成し遂げられ、問題は解決していないものの、碧は楽にしてくれたお登勢に対して感心と尊敬を改めて覚える。