第3章 3 そして平常の音色を
ゴギッ
「ぐぎゃっ」
痛々しい音と恋滋の憐れな悲鳴が聞こえたのは、ダイブから僅か一秒後だった。
『うわー恋滋ー(棒読み)』
「ぎゃはぁなになになななな」
恋滋がくぐもった悲鳴をあげて、じたばたともがいている。
「…………うるさい」
とても、眠そうな、それでいて覇気と殺気を纏った声に、僕と恋滋は素直に口を閉じる。
「っふあぁ……ねみぃ……
クソねみぃ……」
声の主がむくりと起き上がる。
頭にかかっていたらしい黒い布が、膝に舞い落ちた。
長めの銀髪を指でくるくると弄り、青年は目を開いて僕らを見た。
銀髪青年の名前は堂明寺 熾妖。
読みはシヨウ。
先程紹介した要の弟だ。
要は人懐こい性格なのだが、熾妖はその性格に全くもって相反している。
喧嘩っ早く、売られた喧嘩は即叩き買いそして売られた料金以上の制裁を加える。
例えば、一人の男にタイマンを持ち掛けられたとしよう。
その男が病院送りになるのは必須だ。
そして極め付きはルックス。
肩にかかるさらさらの銀髪。
血に飢えた狂犬のように真っ赤な双眼。
大抵の奴は睨まれただけで逃げてしまうほどの覇気を纏っている。