第3章 3 そして平常の音色を
青年の名前は道明寺 要。
読みはカナメで、周りからは主にクン付けで呼ばれることが多い。
人懐こい性格なのだが、その内面の良き性格を外見が否定してしまっている。
鋭く、冷めきった紅の双眼に感情の色はなく、
常に飄々とした表情を浮かべている。
頭に乗せられた、金と銀とルビーの装飾の付いた高価そうなサングラスも、近寄りがたさを演出してしまっている。
「こんなところでどうしたの要クン」
恋滋が目を爛々と輝かせて要を見つめる。
『そうですよ。
要さん、仕事はどうしたんですか?
もしかして行く途中ですか?』
僕が質問すると、要は無邪気にウィンクして言った。
「王子さまがお待ちかねだよ?」
「『王子さま?』」
僕と恋滋は同時に声をあげ、同時に同じ結論に至り、笑った。
『要さんが王子って呼ぶのは……』
「一人だけだよね」
「ま、俺もさ、仕事に行かなきゃ行けないんだけどさ。
これも王子さまの頼みだからねぇ」
要がニコニコとしながら言う。
きっと、アイツに頼られたりねだられるのが、とてつもなく嬉しいのだろう。
「頼み?」
「いつもの五人で一緒に学校行きたいって言ってたんだけど……」
要が僕と恋滋を交互に見つめた時、はたと、なにかに気づいた。
吐き気がする程強い、デジャヴに襲われる。
なんだ?何が言いたいんだ僕は。
思考がグチャグチャにひっ掻き回され、当てはまる単語羅列が見付からない。
なんだよ、これ………。