第12章 噂の収縮
放心しながら兵長の執務室に戻る。
仕方ねぇとはいえ、キョウカさん以外は抱きたくねぇ。
「戻ったか。
どうだった、なんて聞くまでもねェか。
書類届けに行って来い」
書類を1束手渡される。
「行って来ます」
書類に目を通せば、全部キョウカさんに届けるものだった。
兵長、図ってんのか?
「エレンです、書類届けに来ました」
「どうぞ」
「失礼します。
これ、兵長からです」
「ありがとう。
紅茶淹れるね、そこに座ってて」
ニコリと笑うキョウカさん。
普段ならそれだけで幸せな気持ちになんのに、今日はなんか憂鬱だ。
俺はこの人じゃねぇ人を抱くんだよな。
それって、裏切ったことになるんじゃねぇのか...?
「はい、紅茶」
「ありがとうございます」
紅茶を出されても、手は伸びなかった。
気分じゃねぇ。
「エレン?
具合でも悪いの?」
隣に腰を下ろし、顔を覗き込む。
「顔色悪いよ。
少し休む?」
「いえ、大丈夫です」
「...エレン、何かあったの?」
声のトーンが下がる。
やべぇ、心配かけたか。
「なんでもありません!
大丈夫ですよ。
紅茶いただきます」
笑顔を貼りつけて、紅茶に手を伸ばす。
「...誤魔化さないで」
その手を止められた。
「エレン、私に話せることなら教えて。
1人で抱え込まないで。
なんでもないならそんな顔しないで」
そんな顔...?
そんな顔ってどんな顔だ?
俺今どんな顔してるんだ?