第9章 For You…
ラメを散りばめた素肌の上に小袖を纏い、緋色の長袴を履く。
この時点で足が出ない分、かなり動きが制限される。
その上に何枚かの着物を重ねられたら、足先一つ動かすのも一苦労で…
「重っ…。つか、これでまだウィッグも…なんだよな…?」
自分でオーダーしておいてなんだけど、すげぇ不安になってきた…
着付けをしている健永も汗だくになっている。
「聞いた話だと、総重量って言うんですか? 20キロくらいになるらしいっすよ?」
「マジか…」
やべ…、目眩しそ…
「ふぅ…、これでよし、と…。後ウィッグ乗せたら完成ですから」
額の汗を拭い、長く垂らした黒髪のウィッグを俺の頭に乗せる。
ウィッグ自体にも相当な重量があるのか、頭が後ろに引っ張られそうになる。
しまったな、こんなことなら事前に衣装着てリハやっとくんだった。
今更後悔したところで本番までの時間は残り少ないし、どの道全部脱いじまうんだから、少々のことなら耐えられるか…
俺は深い溜め息を一つ落とすと、健永が用意してくれた姿見に自分の姿を映した。
その時、荒々しく階段を駆け上がってくる足音が聞こえて、俺は視線を姿見から楽屋のドアへと移した。
翔の足音だ。
これまで何十回、何百回と聞いてきた足音…
聞き違える筈がない。
軽いノックの後、暫くしてゆっくりと開いたドアの隙間から覗いた顔は、俺が予想した通り翔で…
翔は俺を見るなり、驚いたように目を丸くして、健永がいるにも関わらず俺を抱き締めると、赤い口紅を塗った唇に、まるで貪るようなキスをした。
そして俺の耳元に唇を寄せると、
「見てるから…。一番良い席に座って、見てるから…」
囁く様に言って、そのまま楽屋を飛び出して行った。
後を追うことも出来ない俺は、ただ呆然とその場に立ち尽くし、翔が触れた唇を指の先でなぞった。
つか、あんなキスしやがって…
メイク崩れるっつーの…
俺は顔が…いや、体全体が熱くなるのを感じていた。