第5章 Time…
「でな、その祭りに雅紀をだな…」
智が用意してくれた朝飯をパク付きながら、昨日雅紀にした話を智にもした。
当然、智のことだから「俺は行かない」って言うだろうと思っていた。
ところが、だ…
「へぇ、面白そうじゃん。それにあの二人なら、結構お似合いだしな」
智の口から出たのは、全く予想もしていなかった言葉で…
「だ、だよな…、お似合いだよな」
俺の方が戸惑ってしまう。
「待ち合わせは神社でいいのか? 多分俺とニノの方が早く着くと思うけど…」
「そう…だな。そうして貰えるか?」
俺と雅紀は、立場上仕事をほっぽり出して祭りに繰り出す…って訳にはいかないのを、智も良く理解してくれている。
「おっ、そろそろ出ないとマズイな…」
俺は残りのパンを口の中に押し込むと、カフェラテで一気に流し込んだ。
滅多に劇場に顔を出すことのない社長、つまり親父が月に一度だけわざわざ劇場に足を運び、経営状態をチェックする日がある。
それが今日だ。
「俺先出るけど、お前一人で大丈夫か?」
「ばか、ガキじゃああるまいし、一人で行けるっつーの」
それもそうか…
でもな、智?
分かってはいても、どうしても心配になるんだよ、お前のことが…
一人にしたら、何処かに行ってしまうんじゃないか、ってな…
「あ、おいネクタイ…」
ソファーの上に置いたPC入のブリーフケースを下げた俺を、智の手が引き止める。
そして俺の首元に手を伸ばすと、緩んだネクタイをキュッと絞めあげた。
ネクタイすら自分で絞められねぇくせにな(笑)
「よし、これでいい。行ってこい」
俺は智の顎を持ち上げると、智が瞼を閉じるのを待って、その唇に自分のそれを重ねた。
「じゃあ…、行ってくる」
穏やかな時間…
この時間がいつまでも続けばいいと、そう思っていた。
いや、違うな…
俺は願っていたんだ…