第5章 Time…
まだ熱が残っているにも関わらず無理をしたせいか、果てた途端に意識を飛ばした智の身体を綺麗にしながら、俺はふとボストンバッグの上に無造作に置かれた写真立てに目を向けた。
写真の中のソイツは、あれからもう何年か経つのに、一向に色褪せることなく、爽やかな笑顔を絶やすことはないし、年齢を重ねることだって無い。
だって写真の中のコイツは…もうこの世にいやしないんだから…
なのに智は、一体いつまでこの男に縛られているのか…
もういい加減解放されてもいいんじゃねぇか?
「いい加減…俺だけを見ろよ」
お前は信じないかもしんねぇけで、これでも俺…お前のことは本気(マジ)なんだぜ?
汗で額に張り付いた茶色い猫っ毛を指で掬い、その手をそのまま紅潮した頬に滑らせる。
すると小さく身動ぎした智がゆっくり瞼を開けて、
「ん…、擽ったいよ…」
掠れた声で苦情を言って、俺の手を払った。
「どうする、一人で帰れるか?」
「翔…は? まだ仕事あんだろ?」
一度は自分で払い除けた手を握り、男の割には華奢な指を絡めてくる。
やっぱ分かんねぇわ…
「まあな、雅紀に任せてばっかもいられないしな」
昨日も智のこともあって、結局雅紀に残りの業務全部丸投げしちまったし、副支配人とはいえ流石に不満も出かねないだろうし…
もっとも、雅紀は文句を言うような奴じゃないけど。
「帰るなら誰かに送らせるけど、どうする?」
雨こそ降ってはいないが、体調が万全でない以上、一人で帰すのは、やっぱり不安だ。
「待ってちゃ…駄目か? 俺、別に静かにしてるし…、邪魔もしないから、ここでお前の仕事終わんの待ってちゃ駄目か?」
暫く考え込んだ後、智の口から返って来たのは、予想外の言葉だった。