第25章 End of Sorrow…
それからと言うもの、俺の日常は一転した。
劇場運営に関わる引き継ぎ業務に加えて、希望する者だけではあったが、坂本のスタジオへ通う踊り子達の送迎、それと並行して坂本との打ち合わせ…
寝る間もない程の多忙を極めた結果、智のことを考える余裕すらなかった。
逆にそれが良かったのかもしれないが…
一度智のことを考えてしまえば、脳内の大半が智に支配されて…、それこそ仕事が手につかなくなる。
それでも俺は、一日と開けることなくマンションに帰った。
“チワワ”が俺の帰りを待っていたから…
“チワワ”は俺が帰るのが分かるのか、いつも玄関先にチョコんと座って俺を出迎えてくれた。
疲れも吹っ飛ぶ瞬間ってのは、こう言うことを言うんだと、改めて感じさせられた瞬間だった。
と同時に、出迎えてくれるのが“チワワ”でなく智であったら…どんなに幸せんなんだろうと…、疲れた身体に寂しさと侘しさが押し寄せる瞬間でもあった。
そんな日々が一ヶ月程続き、劇場がストリップ劇場としての最後の役目を果たす時が訪れた。
その日は最後の公演ということもあってか、想像を超える数の客が劇場に押し寄せた。
中には智がいなくなってから、暫く足の遠のいていた人も…
俺は最後の公演を前に、客前に立った。
永らく劇場を愛してくれたことに感謝を伝えるためだ。
普段は緊張なんてしたこともない俺だが、この時ばかりは珍しく足が震えた。
それでもステージ上から見下ろす客席の中に、見知った顔を見れば、胸に込み上げる物もあった。
「お疲れ様」
支配人として最後の務めを果たし、ステージを降りた俺に、雅紀が右手を差し出した。
「ああ、後頼むな…」
「うん、任せて」
頼もしい笑顔に見送られ、俺は最後のステージを見ることなく劇場を後にした。
煌びやかな電飾で飾られた看板を見上げる。
「これでいいんだよな、智…?」
随分前に智が語った夢…
「いつかこの劇場から、世界で活躍出来るダンサーが生まれると良いな…」
俺はその言葉を、ずっと忘れちゃいなかった。
ただ、今の俺にはその夢を叶えることは出来ない。
ごめんな、智…
やっばり俺…お前がいねぇと駄目なんだよ…
会話なんていらねぇ…
だだ隣にいてくれさえすれば、それだけで俺は…