第25章 End of Sorrow…
「なあ、あれって坂本じゃない?」
「嘘だろ? そんな筈ないって…」
そんな声が、客席のあちらこちら…、特に踊り子達の間からから上がる。
それもそうだ、ここにいる踊り子達の殆どは、かつてはプロのダンサーを目指していた奴らばかりだ。
ただどうにもならない事情であったり、途中で挫折したり…、それでも踊る場所を求めて、踊ることを諦めきれない自分を認めて欲しくて、ここに辿り着いた奴らだ。
そんな奴らが、長らく表舞台からは遠ざかっているとは言え、坂本を知らない筈がない。
驚嘆は勿論のこと、疑いの声が上がるのも当然のことだろう。
俺は坂本に目で合図を送ると、坂本は一つ咳払いをしてから、穏やかな…、でも判然たる口調で話し始めた。
一度でもダンサーを志した者ならば当然のように憧れの存在である坂本の言葉に、真剣に耳を傾けながら、それでも羨望の眼差しを向ける踊り子達。
勿論、真剣なのは踊り子達だけじゃあない、滝沢を始めとする劇場運営に関わるスタッフも同様に、だ。
坂本が、簡単な挨拶と、坂本自身が思い描く劇場の今後の展望を一通り話し終え、雅紀に場を譲る。
マイクを受け取った雅紀は、引き攣った笑顔のままマイクを口元に宛てた…ものの、未だに緊張しているのか、救いを求めるような目で俺を見つめてきやがる。
…ったく、これじゃ先が思いやられるな…
俺は雅紀に代わってマイクを握ると、困惑の色を浮かべる客席に向かった。
するとその時を待っていたかのように、幾つかの手が上がり、ステージ上は一転、質疑応答の場と変わった。
尤も、そうなることは最初から想定済みだし、ある程度の質問には答えられるだけの回答だって前以って準備はしてある。
だからそう大して慌てることもなかったが、支配人が変わること、そして何より劇場からストリップの看板が外れることが、期待は勿論のこと、これ程までに不安を与えることとは…実際思っていなかった。
俺は出来得る限りの誠意をもって質問に答えて行った。
結果、スタッフは元より、踊り子達の殆どからも賛同を得られたわけだが…
全ての説明を終えて支配人室に戻った時には、驚く程の疲労感に襲われていた。
ここからが正念場だってのに…
情けねぇ…