第25章 End of Sorrow…
しきりに不安を口にする雅紀に、俺はある人物の名前を告げた。
すると雅紀はそれまでの不安顔を一転、無邪気な子供のように目を輝かせた。
「マジで? マジであの人が?」
雅紀が驚くのも無理はない。
俺だって最初返答を貰った時は、我が耳を疑ったくらいだから。
「どうだ? 俄然やる気になっただろ?」
「勿論だよ。だって坂本さんだよ? あの人なら、名前も知れてるし、百人力だよ」
確かに雅紀の言う通りで、坂本の経営するダンススタジオからは、プロとして活躍するダンサーも多く排出しているし、坂本のレッスンを受けたくてスタジオに通うダンサー志望の生徒も多いのは事実だ。
そして坂本自身も、かつては多くの舞台を踏んだ経験もあるプロのダンサーだ。
その坂本が企画運営に加わるとなれば、劇場としては願ってもない宣伝材料になる。
加えて、副支配人として俺の右腕を務めてきたとは言え、直接運営に関わるにはまだまだ不安の残る雅紀のサポートまでしてくれると言うのだから、これ程有難い話はない。
運営から退くことを決めた俺にとっても、大きな安心材料の一つになる。
「そっか、あの坂本さんが…。あ、ねぇ、もしかしたらこの劇場から世界で活躍出来るようなダンサーが出ちゃったりしてね?」
「そうだな、それも夢じゃないかもな…」
それが例えば智であって欲しいと願ってしまうのは、まだダンサーとしての智を諦めきれていないから…なんだろうな。
ま、諦めるつもりは毛頭ないが…
出来ることなら、劇場がストリップ劇場として最後の役目を終えるその時は、智と一緒に迎えたい。
智のステージで幕を引きたい。
そして幕を開ける時も、智と…
「あ、ところでこれ…」
俺は財布の中に仕舞ってあった小さな紙切れを、”チワワ”と戯れる雅紀の前に差し出した。
「これ…は…?」
幾つかの数字が書かれた紙切れを手に取り、雅紀が首を傾げる。
「それ、ニノの携帯番号だ」
「えっ、ニノ…の…?」
瞬間、雅紀の目が大きく見開かれ、紙切れを持つ手が心なしか震えた…ように見えたのは、俺の気のせいだろうか…