第24章 A piece…
「分かった…」
ピンと張り詰めた静寂を断ち切るように、翔が低く呟いた。
そして俺の手首を掴むと、ニノが制止するのも振り払い、俺を二階の寝室へと引き摺り込んだ。
そして軽々と俺をベッドの上に投げ付け、俺の上に馬乗りになった。
「な、なんのつもりだ…」
「なんのつもりか、って? 決まってんだろ、お前を抱くんだよ。ほら、さっさと脱げよ」
「は、はあ? おまっ…、何考えて…」
月明かりは僅かにあるものの、照明すら灯していない状況では、翔の表情は読み取れない。
でも、それまでに感じたことのない恐怖を、俺は翔に感じていた。
「しょ…翔…、こんなこと…」
抵抗しようにも、圧倒的な力の前では俺は無力でしかなくて…
抑え付けられた手を振り解くことも適わない。
「殺せって…言ったよな? だったら俺が殺してやる。俺のこの手でな…」
ゾクリとするような低い声に、背筋に冷たい物が流れ、俺は思わずゴクリと息を飲み込んた。
「でもただじゃ殺してやれねぇ。高級男娼の味とやらを楽しませて貰うくらいの権利はある筈だぜ?」
本気だ…
翔は本気で俺を…
それならそれでいいさ…
「分かった。好きにしろよ…」
俺は全ての抵抗を止め、静かに瞼を閉じた。
その時、ポツリ…と雫が落ち、俺の頬を濡らした。
泣いて…る?
翔が…泣いてる?
「…んでだよ…、なんで…」
ポタポタと落ちる雫が、俺の頬を濡らしては滑って行く。
そう…か…
逃れられない過去に苦しんでいるのは、何も俺だけじゃなかったんだ…
翔も、そしてニノも、近藤だって…、皆それぞれに苦しんで、それでも俺を…
全ての原因を作ったのは俺なのに…
なのに俺は…
ごめん…、翔…
でももうどうすることも出来ないんだ。
全てを知られてしまった以上、俺はもう翔の隣で生きていくことは出来ない。
だったらいっそのこと…
俺は閉じていた瞼を開くと、そこに妖艶さを漂わせ、欲の炎をチラつかせた。
望んだわけじゃないが、仕事をして行くうちに、自然と身に付いた、客を喜ばせるための手管を、俺は翔に対して使った。
翔が一番嫌がることだと知りながら…