第23章 Moving on…
「先に言っておくが…」
自宅の玄関を前に、近藤が今一度俺を振り返った。
「分かってます。何があっても、逃げたりはしませんから」
智への俺の愛は、そんな中途半端なもんじゃない。
こうなってみて初めて気が付いたんだ…、俺は智のためなら、自分の命さえ惜しくはない。
それくらい、本気なんだ。
「そうか…、それを聞いて安心したよ」
何重にもかけられた電子ロックを解錠して、近藤が玄関ドアを開ける。
「智は突き当たりのリビングにいる筈だ。さあ、どうぞ?」
大理石張りの広い玄関に靴を脱ぎ、用意されたスリッパを履く。
たったそれだけのことなのに、身体が思うように動かない。
どれだけ口で立派なことを言ったって、本音は隠せやしない。
俺はそこまで強くはないってことを再認識させられた。
「少しここで待っていてくれるか?」
「え、ええ…」
「なに、深い意味はないよ。ただ、急なお客様に、智が驚くといけないからね…」
お客様…か…
今の俺は智にとって、“客”でしかないと…、そう言いたいのか…
それならそれでもいい。
智を一目見れるなら…、智に会えるのなら…
たとえそれがお客様扱いだったとしたって構わないさ。
家の中だと言うのにロックを解錠して、近藤がリビングのドアを開けた。
一面分厚いすりガラスで出来たドアは、外からは中の様子を伺い知ることは出来ない。
それでも俺は、少しでも中の様子が知りたくて、耳をそばだてた。
その時、
「待たせて済まなかったね、入りなさい」
ドアが開き、近藤が俺を中へ入るよう促した。
うん、と頷いた俺は、鉛でも付いているかのように重い足を、ゆっくりと開かれたドアの向こう側へと進めた。
「智…は…?」
広いリビングをグルリと見回すけれど、智ところか、ニノの姿さえどこにも見当たらない。
智の性格上、俺の顔を見たって飛び付いてくることはないとは思っていたけど…
何だか肩透かしを食らったような…、そんな気分で息を吐いた俺に、近藤がリビングの奥…、襖で囲われた部屋を指さした。
「智はあそこにいるよ」
たった一枚の襖を隔てた向こう側に智が…
俺は息を深く吸い込み、それを全て吐き出してから、静かに襖を引いた。