第23章 Moving on…
「ただ…」
その先の言葉を聞くのが、怖かった。
怖くて、怖くて…
小さな紙切れを握る手が震えた。
「ただ…、なんです?」
近藤が何を躊躇っているのか…
考えれば不安になる。
でも漸く智に手が届く所まできているのに、ここで悠長に足踏みをしている場合じゃない。
恐れていたって何も始まりはしないんだ。
「言って下さい。今更何を聞かされたって驚きもしませんから」
そうさ…、山本さんの話を聞く以前に、智を取り戻すと決めた時から覚悟は出来てる。
たとえ智に何があったとしても…
たとえ智がどれだけ変わっていても…
たとえ、智が俺を拒んだとしても…
俺は智をこの手に取り戻すと決めたんた。
「分かった。どうやら君の覚悟は本物のようだからな」
近藤の顔に笑みが戻る。
俺と雅紀は互いに顔を見合わせ、ゴクリ…と息を飲んだ。
確かに覚悟は出来てる。
でも、このどうしようもなく込み上げてくる不安と、そして緊張感だけは、どうしたって拭いきれねぇ…
まだまだだな…、俺も…
「先ず、今の智が置かれている状況だが…、智は今俺の自宅にいる」
「じゃ…あ、これは近藤さんの…?」
「ああ、その通りだ。さっきも言った通り、ニノ君と一緒にね」
俺の隣で雅紀が一瞬、ホッと息を吐き出す。
雅紀は雅紀で、ニノの安否をずっと気にかけていたから、無事が確認出来たことで安堵するのも無理はない。
それに智だって、一人でいるよりは、気心の知れたニノといれば、安心だろうし…
「ただ…」
まただ。
また、「ただ…」と言ったきり、先を濁そうとする。
一体智の身に何が起こっている?
「その…、智が薬物を常習的に使用していたのは、さっきの山本さんの話で分かりました。でも、今はもう…」
「確かに今は薬からは遠ざかった生活をしている。離脱状態と言ってもいいだろう」
「だったら…!」
遅々として智への距離が縮まらないことに苛立ちを覚えた俺は、思わず声を荒らげ、テーブルに拳を叩き付けた。
そして徐に腰を上げると、驚いた顔で俺を見上げる雅紀を見下ろし、
「行くぞ」
ソファーの背凭れに引っ掛けたジャケットを手に取った。